14 桃太郎

 子ども持たないで、正直に暮しったお じいさんとおばぁさんあったど。
 そして、ある時、おじいさんが山に柴 刈りに、おばぁさんが洗濯に川さ行った ところが、大きな桃が流っで来たから、
「あらら、これはおじいさんがなんぼ水 飲みたくてござんべがら、これもって 行って、二人で分けて食うべ」
 と思って、
「こっちゃ来い、こっちゃ来い」
 と言うたば、おばぁさんの前さ来たか ら、それを拾って前掛けさ取って、神様 さ上げ申しったところが、おじいさんが、
「こわがった(疲れた)」
 なて帰って来て、
「おじいさん、とんな大きな桃拾って 来った」
 と行ってみたところが、まずまず魂消 たことには、二つに割れて、そこから大 きな男の子は生まっでいたもんだから、
「おじいさん、早く早く」
「なんだごんだ」
 と、おじいさんが寄って行ってみたば、 男の子のめんこいな生まっでいだど。
「あらら、おらだ子どもないから、まず 子ども授けておくやったんだべから、ま ずまずお湯わかして洗って呉れて、まず」
 と言うもんで。
 ほうしたところが、ほんとに元気な子 どもでタライでも何でも持(たが)くオボコ だったど。
「これはこれは、天の与えたこういう風 なもんだ」
 なんて喜んで、
「おじいさん、こがえなええ子ども、な んと名付けたらええがんべ」
「桃から生まっだがら、桃太郎と名付け てええがんべな」
 なて、二人は喜んで、桃太郎と名付け て、
「何好きだ、桃太郎」
「小豆(あずき)飯(まま)さ、魚(とと)かけて好きだ」
 と、おばぁさん、魚買って来て、食せ て、小豆飯炊いたところが、何杯も何杯 もたちまち内におがって、あるとき、
「おばぁさん、おじいさん、お願いしま す。鬼が島さ鬼退治に行きたいから、日 本一の黍団子拵っておくやい」
「鬼なんどというものは、そがえな小(ち)っ ちゃいの食れんなぜ、鬼に」
「いや、おれは征伐して、人を苦しめる そうだから、征伐して来っから、まず日 本一の黍団子拵っておくやい」
 おじいさんとおばぁさんが、トンカト ンカと叩(はた)いて、日本一の黍団子というも んで、うまく拵えて袋さ入っで、そして発(た) たせてやって、
「鬼に食んねように征伐して来いよ」
 と。そして途中さ行ったところが、犬 がワンワンワンと吠えて、
「桃太郎さん、桃太郎さん、どちらさご ざる」
「おれは鬼が島さ鬼退治に行くとこだ」
「ほんじゃ、おれもお伴するから、一つ 団子を下さい」
 そして呉れたところぁ、食って、こん どはまた途中さ行ったところぁ、バタバ タ、バタバタと。上見たところが、キジ が降りて来て、
「桃太郎さん、桃太郎さん、どちらさご ざる」
「鬼が島さ鬼退治に行くとこだ」
「おれもお伴したいから、黍団子を下さ い」
 と言う。そいつを呉れて、キジを先立 ちにしてまたこんど行ったところが、ガ サガサ・キキ…というから、見たところ が、赤い顔面(つら)して猿ぁ来て、ちゃんと前 さ来て、おじぎして、
「桃太郎さん、桃太郎さん、どちらさご ざる」
「鬼が島さ鬼退治に行くとこだ」
「おれもお伴させて下さい。腰につけた 黍団子一つ下さい」
 そこでまず、みんなで分けて食って、 山さキジは先立ちになって行ったところ が、やっぱし鬼が住んでだ鬼が島は大し た城なの拵えていた。
「ああ、人くさい人くさい」
 なて、キジはどんどん叩いて、中から 錠をはずして、入って行ったところぁ、 全くええどこで、桃太郎が不意に行った もんだから、キジはケンケン突っつくと いう、犬はワンワン噛(かぶ)つくという、猿は かっちゃばくという、てんでに逃げて、 その一番と鬼のところさ桃太郎はかかっ て行って、
「降参だ、これから決して悪いことしな いから、どうか生命ばかり助けて呉(く)ろ」
 と願わっだもんだから、
「ほんじゃ、宝物を出せ」
 と、そうして宝物を出させて、みんな そいつを持(たが)かせたり、引張ったりして来 て、おじいさんもおばぁさんも食わっで しまったかと思っていたところが、帰っ て来たので、喜んで、殿様からお賞めを いただいて、大した桃太郎の手柄だった ど。
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