13 孔子のはなし

 孔子という人は、おっかさが仲々偉い くて、一人の人間にするには、そちこち のことを聞せたりそちこち習わせなくて なんねと思って、町さやって、売りどこ 見せたそうだな。
 そしたところが、やっぱし家さ来て、 みんなと友達あつめて、「買わねえか」「い やなんぼだ」なんて言うことばり言うて。 そうすっど、困ったと思って寺さあつら えたところが、この通り葬式の真似はす る、お経の真似はするで、まず遊んでい る。
「これは学問させる他てないから、学者 さあつらかなくてなんねえ」
 と、あつらえて、そしたら嫌(やん)だくて、 途中にして逃げて来た。そしたらばおっ かさ機織りしったの、その機をバギバギ と鋏んで、
「ほれみろ、途中にして切っじど、こう いう風な機と同じで、この機切ったの、 何にもなんね」
 と。賢こいもんだから、よくよく感心 して、また寺さ行って学者に学んで偉い 人になったそうだな。
 ある時、世の中ずっと渡ってみんべと 思って旅に出たとき、宿屋さ着かない内 に、草原のとこで暗くなったそうだ。ん だから草上さ、木枕にしてねんべと思っ て竹棒で草叩いてみたところが、何かポ ンポンというものあるから、見てみたら、 髑髏(しゃれこうべ)あったそうだ。そしてそれに向っ て、
「髑髏、なんだ、こんげなとこに、こん な住みようしているものは、まず人間の 内にはええことした者ではないと思われ る。人を殺して隠れ人になって死んだか、 強盗したか、喧嘩してこげなことになっ たか、ええあんばいな死様(しにざま)して、ここに、 雨にさらされ、風にさらされて、こげに しているもんでないんだ。親もいだった べに」
 なて言うようなことで、
「今度もう一度世の中さ出きて、立派な 世の中を面白く世渡りしたらええがんべ に」
 なて話語って、
「今晩、この頭を枕にして寝っかな」
 なんて、髑髏枕にして寝たそうだ。そ したところが、夜中に、
「おいおい」
 なんていう音すっから、「誰だ」なて暗 くて見えないんだし、
「おれは昼間質問さっだ髑髏だ」
 なて言うごんだずも。
「はぁ、そうか。お前に何か質問さっだ げんども、おれぁ語ることがない。こが えにええ世の中さ来たから、何にもおれ の語る問題としてはない」
 と言うたごんだど。
「ああ、そんだか、この世の中くらいえ え世の中はない、殿様であったたて、な えだてほがえに世の中のええどこざぁ、 あるもんでない。汚ない人間さ交わっこ とはないし、世の中さ何にもかまいもな いし、自分の思うようにこうしている。 おれはこの世ええくて、二度と生まっで 行かない」
 なんて言うごんだどな。その髑髏が。
「そうか」
 孔子は朝起きて、また旅に出きて、世 の中みな見て、家さ帰って来てみたとこ ろが、国はもめて仕様はない。帰ってさ えも来っじど、国王になってもらいたい という話で、使いの者はいっぱいお土産 なの持って来たげんども、
「おれは決して上になんつぁなるもんで ない、自分が思うように世の中に出るく らいに面白いことはないから、決して上 になの立たない」
 そういう風に言わっだもんだから、 帰って行った。使いの者が帰って言うた ら、
「もう一度まず願って来い」
 と言わっで来たら、その通りで長生き するには上さ立って、心配なのしてられ るもんでない。世の中見て面白く暮した 方が、なんぼか長生きのもとだから、決 して国王にはなんないと言うて呉ろ」
 と帰してやった。とうとう上に立った ことはないくて、死にやった人だどな。
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