9 日本一の相撲

 どこの国だか、日本一の相撲とりい だったそうだ。その人が足駄の頑丈な履 いて、家の近間の川あっどこさ、涼みに 行ったそうだ。
 そこは何か、葭(よし)なの茂って、木はある。 綺麗な川でもないげんど、涼みに行って たところが、波立たせて行った。そした ば、蛇の尾、バエンと足のところさ寄越 した。足駄をギリギリと巻いたところが、 ビリビリ・ビリビリと足駄の歯欠けたど。
「あら、蛇の畜生だな、こりゃ」
 と。そのうちに足を巻いてツラツラと 連(せ)て行かれそうになった。そんで蛇に負 けていらんねというもんで、ドスッと腰 降ろしたところ、その上はへっこんだそ うだ。先ず一生懸命で蛇は引張る。相撲 は負けていらんねと思って、ドシッとす る。そしたばパキンという音したとこ ろぁ、川が真赤になったどこだど。
「これは、蛇は負けたな」
 と思ったところぁ、弟子どもら来て、
「見ろ見ろ、蛇はおれぁ巻いてあるの取 れ」
 と、蛇の巻いたの、取らせたら、蛇の しるしは、でっつりと着(つ)かって洗っても とれっざぁないど。それから、近所の人 も魂消て、話きいて来て、
「酒で後を洗うと取れるったんねが」
 なていう話で、洗ったら取れたど。そ れから、弟子どもらさ、
「蛇はずいぶん力持った。お前方縄でお れぁ足引張ってみろ、なんぼあるもんだ か」
 と、十人かかってもかなわね。二十人、 三十人したば蛇の力ぐらいの出来だど。 蛇の力の恐ろしさに魂消たど。三十人力 あっかったど。
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