6 蜂の恩返し

 大和の国に与吾大夫という武士がいて、 その武士が城をもっていた武士であった そうだ。戦いに押し寄せらっで、城を陷 さっで、そして自分が生命さえもあっど、 何時かなじょかなっから、おれは討死さ んねと思って、山さ逃げて行って、五六 十人しか、まだ残った者いないの、皆そっ ちこちさ隠っでいた時、与吾大夫は隠っ でいたところから出きて、山をめぐって みたところが、大きな蜂は大きなクモの 巣にからまって、ブンブンブンブンとい たっけど。クモの巣から取って、
「お前も、たしか子どももいたべし、部 下もいたべし、お前死ぬと困った者いた べから、おれはこれを逃がして呉(け)る」
 というもんで。そしたば、その次の晩、 枕元さ赤茶けたような者は来て、
「うーん、おれはお前に助けらっじゃん だ」
 と言うごんだど。そして、
「お前はまた戦さすれば、おれは確かに 勝たせてやる」
「ほんでも、おれは五六十人しかいない」
 と言うたところが、
「五六十人の家来でたくさんだ。おれも この山の家来は五六十ぐらいしかいない べげんども、そいつに皆加勢させっど、 たしかに勝たれっから、こいつは本当の こととして、城というような恰好だけで ええから建てて、そこさ敵が来たとき、 城のぐるりさヒョウタンや徳利のような、 スズのようなもんでも、ぐるっと、そこ さ置いてくろ」
 と、こういう風に言うて行ったど。そ して家来さ行って、その話したところが、
「ほんじゃ、まず建ててみろ」
 と言うもんで、まずあちこち城みたい な恰好に建てたところが、向うでは見つ けて、まだ大夫はいた、あいつ殺さねう ちは分んねから、いま一攻め攻めんなね、 と言うもんで、また押し寄せて来た。そ うしたところ、蜂はそれを聞いて、いっ ぱい家来どもら言いつけて、それ !! とスズのようなものさ皆入って待構えっだ。 ところが敵が押し寄せて来た。今度は弓 打つべと思うと、手刺す、面(つら)でも眼(まなぐ)で も皆ツクツクツクツクと刺して、とても 戦さしていらんねくて、みな逃げて行っ たど。そうすっど大勝利になって、蜂は 六七十死んでいだっけど。それを掘って 墓石を建てて葬って、お祀りをしたって …。んだから蜂だっても恩返しすっこと ある。
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