3 化物むかし

 まず、ある村さ、折々ええどこさ入っ て来て、そこの旦那を連(せ) て行ったり、いろいろして、世の人々は何の話というと 稼ぐ気もなくして、
「今晩あたり来(く)んであんまえか、化物に は何処にいてもねらわれんだから…」
 という話ばかりではぁ、稼ぐ気もない どこだったもな。そしてそういう話は自 然と遠(とか)くまで響いたもんだから、武者修 行はそういうところばかり選んで歩くも んだから、これは幸いと思って来て、地 主どこさ来て話したら、
「それはええ、幸 (しやわ)せなごんだ。誰言う となく遠(とか)くまで響いたなんざぁ、幸せな もんだ」
 なんて、喜んで酒なの飲ませらっで、
「どこどこ辺りさ、今晩入るかと思って いたところだから…」
 と、先ずその家さ案内したら、喜んで はぁ、
「みんな高枕で寝ろ、おれぁ一人で起き ていっから、化物などおれぁなじょにも 退治すっから」
 なんて言わっで、まずみんな寝て、そ の人は寝ぶた振りして、鼾かいていたと ころぁ、やっぱし煙出しからドェッーと 入って来たものあったそうだ。そうして 見っじど、まず本当の化物なんだしそい つと組打ちして、化物負けらかして、
「さぁ、みんな縄でも持って来い」
 というもんで、皆呼ばって縄でギィ ギィと手足縛ってズルズルと引張って 行って、後ろに梅の木あっかったそうだ、 そこさギリギリとつないで、
「ないな化物だか、明日起きて見んべ」
 と思って、まずその人は火焚いて酒な の飲んで朝げになるまで待ちたところが、 朝げになって見たれば、その梅の木がら みにないのだど。引張って行った跡あっ けんど、そこさまず、その跡をただして、 ずうっと行ったらば、小高い山みたいな とこさ行って、そこさ神様あっけど。そ この前さちょっと置いて、居ねごんだけ どな。見たところが、大黒天と書かって たお宮だから、お大黒様に相違ないと 思って、
「お大黒さま、お大黒さま」
 というたば、「はい」なんて出来てきた そうだ。
「なんだ、お前だか、化物になって人を …。どこにいたのだか、化物知っていね か」
なて言うたどころが、
「おれだ」
 なんて言うごんだど。
「なんだ、神様のだいして、人を苦しめ るなんて、もってのほかの神様だ」
 なて、見そこねること言うたらば、
「見ろ、おれぁ家見ろ、まず。雨はむっ て、とにかく入っていられるもんでなく なった。この有様見ろ」
 と。そして村ではぜいたくのしほうず して、まず、ええあんばいに暮してで、 おれぁどこと言うとこの様(ざま)。ほだから、 おれぁくったねない。戒めにおれぁ皆連(せ) て来んべと思った、ど。こういうごんだ けど。そうすっど、
「いや、ほんじゃらば、まず、なんぼも ええく思う通りにお宮なの拵(こさ) う。さらって来たものどこさ置いっだ?」
 と言うたところが、
「裏の洞穴さ入っでだ」
「ほんだらば、そいつ出せ」
 と言うもんで、そこさ行ったらば、やっ ぱり。「早く来い」と言うたらば、痩せて 「ありがたい、ありがたい」と、そこに は大工もいれば鍛冶屋もいれば、なえで もかえでも居るごんだどな。その話した ごんだれば、たちまち内に、そのお宮普 請して、毎年お祭りして…、そしたらば その化物は出なくなったって。
 んだから、神様ば祀っている限りは、 お祭りでもなんでもして、神様というも のは大切にさんなねもんだ。
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