2 臼の化物

 一人の男が、大食で、とても何処でも 使うどこなかったど。一升飯なの普通に 食って、そんでもまず、二人番前は仕事 すっかったそうだな。
 その者は山の方さでも行って、飯なの たんと食えっどこさ行かなくてなんねと 思って、行ったところが、とてもええど さ行って、
「おれ、大食で何処も使うどこないほで に、飯さえも一杯食せてもらうじど、お れぁ稼がれっから食せてもらいたい」
 と言うたら、
「よしよし、おれにゃ米などいっぱい あっから、たんと食って働いて呉 (く)ろ」
 と言わっで、喜んで、あるとき、水車 小屋が山の方にあっかったそうだ。そし て先には臼ばっかりで、ドンサェン・バ ンサェンと搗いっだげんど今度は足でタ ンテン・タンテンと搗く臼で、一俵ずつ のを二俵も搗くごんだけど。
「これは飯など食ったたて、こがえに働 く者だもの…」
 と、鍋持たせて、喜んで食いたいだけ 食れるものだとて、鍋もらって米搗き しったって。
 ある晩、何だかガラーッと戸あけて来 て、ニヤニヤ笑ったり、にらめっこする 大入道来たったど。こっちでもにらめっ こして、
「こがえな化物など、おれぁ敗けない。 一打ちにしてくれんべ」
 と思って、そいつさかかって行って、 持(たが)って随分に重たいのだけ、そいつを 持って、裏に岩あるのさ、ドェンとはた いたれば、パェンという音すっこんだど。
 そして朝げになるばり待ちて行ってみ たば、臼の化物だったど。先には臼は使 わっでいたげんども、先ず世の中さ出さ んねから、情なくて出来たなだど。
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