28 狸むかし

 じいさん、ばぁさんが一生懸命で働い ていて、じいさんが山さ火野 (かの) 刈って豆を 蒔いたりいろいろしていたところが、あ る日豆蒔き行って、
  一粒まいたら千なれ
  二粒まいたら二千なれ
 と語って、おじいさんが豆蒔きしった ど。そこさ狸ぁ来て、そこの棒杙 (ぼうぐい) さ尻掛 けて、
  一粒まいたら腐っされろ
  二粒まいたら腐っされろ
 と言うもんで、じいさんどさ語るもん で、
「この畜生 !! 」
 と言うもんで、じいさんどこ半分おか しくてはぁ、ちゃんちゃんちゃんと逃げ て、またじいさんが蒔き始めっど、来て 悪態すっど。
「ほんがえな畜生 !! 」
 と、家さ来て、
「ばぁさん、ばぁさん、こういう風なこ と、狸ぁ来て、俺どこさ、悪いどこ語っ から、あの狸を退治しなくてはなんね、 モッチ(とりもち)買って来い」
 と。ばぁさんにモッチ買わせて、棒杙 さでっつり喰付けたどこさ、それとは知 らねで狸ぁ来て、
  一粒まいたら腐っされろ
  二粒まいたら腐っされろ
  三粒まいても腐っされろ
 と言うもんで、悪態した。それから今 度はじさま行って、
「この狸殺してくれんべ」
 と思ったところが、
「悪いことしねから、どうか助けてくろ」
「助けてくろなんて言うたて、逃げはさ んねし…」
 と、手と足ぎりぎりつないで、家さつ れて来てちゃんと下げて、
「晩げ狸汁して食うように、ばぁさん。 白く米搗いておけ、おれはあそこさ残り を蒔いて来っからな」
 と言うて、じいさんがまた山さ行って いるうちに米搗きしったら、狸が、
「ばぁさん、ばぁさん、こわい(疲れる) がんべぁ」
「こわいな(疲れるな)」
 と言うたところが、
「おれも搗いて助 (す) けっから、まずおれど こ放してけねが…」
「いや、逃げて行くと、おれはじいさん におんつぁれるから、さんね」
「いや、ほげなこと言わねで、また米搗 いてけっじど、白く搗いてけっじど、え えがんべぁ、そしてまたつながれっこで」
 なんて、うんとばぁさんとこ騙したも んだから、ばぁさん、
「そうか、ほんじゃ…」
 と、放して呉 (け) っじゃどころが、
「ばぁさん、こいつ、おれぁ搗くの雑作 ないから、ばぁさんが返さんなねごで」
 と、こういう風に言わっで、ばぁさん が臼さ手入って返したところが、ダーン と狸がばぁさんどこ搗いてはぁ、殺して、 ばぁさんの着物を着て、飯炊いて、ちゃっ ちゃっと、
「じいさん、蒔あげて来たか、まず。狸 汁などしったごてはぁ」
「ほうか、早いがったなぁ」
 そして、じいさんのとこさ、撓 (しな) いどこ ばり、自分は美味いとこの肉ばり食って、
「いや、ひどいな、こりゃ。なんぼ古い 狸だったんだか、あがえに悪態する狸だ から、確かに古い狸だったべ」
 なて、じいさんが言うど、
  撓いは道理
  ばばだもの
 と言うけぁ、狸になって、ビンビンと 逃げて行 (い) がっで、何とも仕様ないんだし、 泣いていたところが、兎がどっかから来 て、
「じいさん、じいさん、なして泣いっだ」
「ばば、狸に殺さっだ」
「ほんじゃ、あがえな狸など、仇とって くれっから泣くな」
 と言わっで、まずじいさんが喜んでい たところが、狸のとこさ、兎行って、
「狸殿、なんとしった」
「まず、腹くっちいんだし、火さあたっ ていたとこだ」
「段々に寒くなるんだし、杉葉拾いに 行ったらええんねが、焚きものとりに」
「んだなぁ」
 なんて、二人で出掛けて、いっぱい拾っ て背負ってから、兎は、
「腹病 (や) めて、家さ行かんねぐなったはぁ」
 と、腹病みの振りしたところが、狸は そいつも知らねで、
「ほんじゃ、おれはおぶって行くより他 はなかんべ、おばれ」
 と、焚きもの背負ってた上さ、ちゃん と背負って、兎はマッチをちゃきんちゃ きんとしたど。
「なんだ、火付けっどこあんまえなぁ」
「いや、そうでないごで、キリキリ虫で もあんべちゃ」
 なんて。そのうちにマッチで火付けた ところが、ぼうぼうと燃えて、兎は向い 山さ、ピンピンと走って行って、
「見事、もえる」
 なんて見ていた。狸は焼 (や) けぱたして、 二三日もよってから来てみたところが、 ウーウーとうなっていたもんだから、
「今度は、ヤケドの薬でも持って行って つけてけらんなね」
 と思って、南蛮粉など混ぜて、薬売り に来て、
「ヤケドの薬、ヤケドの薬」
 とふれて来たところが、焼けぱたした 狸は、
「ヤケドの薬買うべ、なえだ兎、おれど こ、こがえに焼けぱたさせで…」
「薬売り兎と焚物売り兎ぁ別だべちゃえ、 むこさがったな、背中焼いて。この薬さ えも点けんだら、じきに治る」
「ほんじゃ、つけて呉 (く) ろ」
 なんて、背中出してつけてもらったと ころぁ、南蛮粉など入った薬なもんだか ら、痛い痛いと、コロコロとしったのを 見て、兎はチンチンと逃げて行ってはぁ、
「痛くていたべ。気味ええ」
なんて。
「今度はなじょかして、仇とって呉 (く) れん なね。土舟でも拵えて、川さ行くほかな いべ」
 と、兎は自分が舟は木で拵えで、
「狸、なんとしった」
「いやいや、あがえな薬塗 (ぬ) たくって、何 ほど苦しんだか、よっぽど良くなったど こだ」
「薬売り兎か、おれぁ舟のり兎で、舟 拵 (こさ) って来たから、行って雑魚でも獲った らええんねが」
「ほんじゃらば、行って遊んで来っかな。 まず川さでも行ったらええが…」
 なんて、途中まで行ったらば、
「お前の舟を才槌 (さいづち) でタンタンとすっじ ど、うんと雑魚はかかっから、まずそこ で叩 (はた) かんなねぞ」
 そして、
「兎ぁ舟ぁ、ツェン、狸ぁ舟ぁ、ザクザ ク」
 と言うようで、ツェンツェンと、兎ば り行ったど。狸は雑魚食たいもんだから、 タンタンと叩いたところが、水が、壊っ だどこから入って、ガホガホガホガホと 水飲んで死んだかと思ったら、まだ生き て穴さ入ったとこ見たど。
 そうしたところが、腹溶かして大苦し みしった風だっけから、松脂いっぱい 取って行って、
「腹とかしの薬、腹とかしの薬」
 と言うもんで、また兎はふれに行った ど。
「いや、腹溶けて何とも仕様ない。いや とんなごんだった。貴様であんまいな」
「おれぁ、そがなこと知らね。腹止 (とま) りの 薬売りに来たなだもの。ほんじゃ尻の穴 出せ」
 と言うもんで、松脂いっぱい、トント ントントンとつめてもらったど。そうし たところが、今度は苦しくて、腹パンパ ンとなって、また来てみたば、死んでい たごんだけどはぁ。そして、
「じいさん、まず仇とって来た」
 と言うもんで、喜んで、じいさんが子 どもいねんだし、ばさまいねんだし、そ の兎を子どもになんねがと言うもんで、 大事にして兎を飼ったど。それから段々 家さ飼われるようになったど。
海老名ちゃう
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