26 糠福と米福 

 糠福と米福という二人の姉妹はいて、 糠福は先妻の子どもで、米福は後のおっ かさんの子であったど。
 そのおっかさんが米福の方ばりめんご くて、糠福の方、めんごくなくて、毎日 毎日姉の方を働かせて、髪も結わせない ようなことして働かせて、われぁ子ども と言うじど、美味いもの食せて、ええ着 物きせていたったそうだ。ある時、
「山さ栗拾いに行って来い」
 と言うて、姉の方さ底など皆切れっだ のあずけて、われぁ子どもさと言うじど、 ええなあずけて、二人さ、ヤキメシ握っ てあずけてやったそうだ。そして姉の方 はなんぼ拾っても、みな底から落ちでっ て、溜んねくて、米福の方さと言うじど、 いっぱいになったから、
「姉さん、帰ったらええでないか」
 と。
「いや、おれぁまだ溜んねがら、こいつ さ溜めて行かねじど、追出 (ぼだ) されっし、飯 も食せらんねから、ここに沼あっから、 まず飯食ったらええがんべ」
 と、二人で腰かけて握り飯出してみた ところが、姉の方のは、とにかく糠ばり で食んね。妹の方というと、美味いのだっ たど。
「ほんじゃ、二人で分けて食うべ」
 と、妹の分けて食って、その沼さ糠福 の方が握り飯を投げたところぁ、浮きて 沈まねようなもんだったど。
「お前はいっぱい拾ったんだし、おっか さ帰んねじど、心配するから、お前ばり 帰れ、おればり拾って行 (い) んから…」
 と、こう言って、妹を帰して、
「いやいや、おれは家さ行くじど、はぁ、 追出 (ぼだ) されんだし、死んだらええんだか」
 と、沼を眺めていたところぁ、モクモ クと沼はいうから、見っだうちに、大き な蛇ぁ出はって来たど。
「恐っかない」
 と言うたところぁ、
「いや、恐っかないではない。おれはお 前のおっかさだったげんども、蛇に生れ 返ってこの主になっていたどこだ。んだ から、お前にそういう風に苦しめたとこ ろ聞いっだ。何ともこの姿では仕方ない から、下界にも行かんねんだし、お前に ええ打出の小槌をくれるから、これを 振って、お前の好きなもの出せはええし、 何でも思うことはできっから、打出の小 槌を叩け」
 と。そしてもらって、今度はハケゴの 底のあるの出してもらって、いっぱいに 栗入っで帰って来たど。
 お祭りは近づいて、妹は着物でも縫っ てもらって、その祭りの日、おっかさと お祭りに出きたど。お母さは糠福に、
「お祭りに行って来っから、糠福は米搗 いておけよ」
 と言わっで、
「はい」
 と聞いて、米搗いていたところさ、友 達が、
「お祭り見に行かないか」
「おれは米搗きしんなねくて行かんね」
「おれ搗いて助 (す) けるから、あえべ」
 と言わっで、その打出の小槌で着物か ら下駄まで出してもらって、みんな髪な の結って呉 (け) て、
「早く帰って来て、飯炊いて居っどええ のだから、おっかさに見つけらんねよう に行ったら、ええがんべ」
 なんて言うようで、友達と行ったとこ ろが、とにかくええ娘になったど。そし て行ったところが、殿様の息子が見に来 ていたそうだ。
「あの子どもはどこの子どもなんだか、 ええ子どもだごど。あいつ嫁にしてみた いなぁ」
 と親さ願ったところが、姉は、
「あれでええごんだら、あまりええ」
「どこの娘だ」
 と言うたらば、
「苦しんでいた、糠福という娘だ」
「ほんじゃらば、もらって来てええか」
 と。息子は親に許さっで馬さのって、 もらいに来たど。そうすっど、おっかさ は、
「あげなものは、分んね。妹をもらって呉 (く) ろ」
 と。そうしたところぁ、
「妹はいらない、姉でなくてはいらない」
 と。そして姉がもらわっで行って、え えあんばいに暮させていただいたど。
海老名ちゃう
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