22 食わず女房 

 欲のふかくて、飯食わせるにもおしい ような男いだったど。そうすっじど、そ こさ夕方泊めて呉 (く) ろと、ええ女来たど。
「泊ってあまりええ、おらえではたんと 飯などいらねほでに、飯食ねから、そう は米などないぞ」
「飯など食ねったてええから泊めて呉 (く) ろ」
 と、泊ったところは、いつまでもその 女はいたど。そしてそんでも米櫃はガラ ガラ減っこんだずもなぁ。男のばり炊い て食 (か) せんのに、いつでも米箱は減って いっこんだ。奇態なもんだと思って、あ る時、稼ぎに行った振りして、窓を越し て見たそうだ。そうしたところぁ、中か らとんでもない髪ダザランと下げて、ど んどんと頭の上から入っでやるのだけず も、御飯 (おまゝ) ば。恐ろしくて恐ろしくて、
「鬼ずうもんだか、化物ずうもんだか、 こがえな者か」
 と思って、今度は、そいつに見つけら んねように、逃げたそうだ。そうしたと ころぁ、その化物になって姿現わして、 追かけらっじゃど。そうすっど、何とも 仕様なくて、菖蒲とモグサと、ひたひた というようなどこさ、隠っだところが、 ここにいた、ここにいたと思うげんども、 ぐるりんぐるりんと廻ったげんども、菖 蒲とモグサでその者は探 (た) ねらんねでし まったど。魔物は来らんねように菖蒲と モグサを軒さ刺すんだど。
海老名ちゃう
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