15 酒呑童子 

 器量のええ男で、手紙なんというもの は、読み書きもなんねほど入って来っ かったてな。その男さよ。
 ほんじゃ、俺ぁ此処にいたったて、こ ういっぱい手紙なの来っから、俺は身か くしてみんべと、丹波国の大江山という とこさ行って、そこの岩穴さ入ったと こぁ、そのうちに酒も飲みたいやら、何 もだから、その悪い者はみな集まって、 夜はまず酒屋から酒、魚屋から魚、何で もあらん限りなものを丹波国荒らして、 ええ女いるじど、その女を連 (せ) て来い、い やどうだ、ずうもんで、朝げから晩げま で酒飲みして、何とも仕様ないから、今 度は鬼の面かぶってみんべと思ってみた ら、心は邪険で顔ばりきれいな男だった から、その鬼の面がとらんねぐなって、 丹波国、大江山さ入った訳だったど。
 そうすっじど、そいつさ、稼ぎたくな くて唯食っているような悪い者ばり、子 分が寄った寄った。青鬼・黒鬼・白鬼な どみな寄って行ったという話で、夜なの、 丹波国では灯 (あかし) など点けておかれるもん でなかったど。あそこにはええ娘いたな んていうても、連 (せ) て行かれるやら、何と も仕様ないがったのが、天子様の耳さ 入って、一番あらい頼光という者を呼 ばって、
「あれを征伐しないじど、何とも仕様な いから、何とかしろ」
 と言うこといわっでなもんだから、一 に頼光、二に渡辺、三に貞光、四に季武、 五に宝生、六に金時。金時というのは、 山姥が育てていたそうだから、それを貰 いに行って、五人では分んめえから、六 人で、ということで、山姥から貰って来 たど。そしたら、
「俺は偉い人に進ぜだくって育でったの、 ええごんだから…」
 と言うので、喜こんで貰って来て、六 人で何としたらええんだか、仲々賢こく て、仲々すごいもんだそうだから、敗け たなんていうんねから、何として行った らええがんべと、山伏の姿にして、道に 迷って大江山に入ったことにしたら一番 よかんべと思って、笈 (おい) こしゃえて、笈の 中さヨロイ・カブト入れて、白装束になっ て、山さ登って行ったところが、やっぱ し細道で誰も行かね山で、滝あるとこで、 此処で一休み休んで、それから発 (た) ったら ええがんべと、昼休みしたところが、白 装束で頭の白いのかぶってやって、白い ヒョウタン持って、
「お前だ、御苦労なごんだ。手ごわいも んだからよほど気を付けないと…」
 と、俺は山の神だ、気をつけて、あれ を征伐してもらいたいと言わっで目覚め たど。そうして、
「こういう夢見た。ヒョウタンは鬼が飲 むと弱くなるし、お前方飲むと強くなっ から、小さいげんども、なんぼでも切りぁ なく酒が出っから…」
 と言わっで見たら、そのヒョウタンが 頼光の頭の上さある。そしてそこにいた 皆が同じ夢を見たもんだから、これはこ れは、神さま、有難いというもんで、そ こで、滝で垢離とって、拝み申して山さ 登って行ったど。すっど水は段々と赤く なる。
 そしたば、ええお姫さまが、
「間違って来たのに相違ないから、早く 帰れ、帰れ」
 と教えっこんだど。それでも、
「いや、苦労しているお前方を助けるた めに来たのだから、お前こそ早く逃げろ、 早く逃げろ」
 と言うもんで、その女を逃がしたど。 そしたば、
「人くさい、人くさい」
 と言うて、
「また獲れたぞ、こりゃ」
 なんていうような調子でいだけど。
「昨夜 (ゆんべ) 、女殺さっで、その着物洗ってい んのだ」
 と言うたど。それで頼光たちは門をど んどん叩いたところぁ、
「俺だこうして道に間違って来たところ だから、泊めてくろ」
 と言うたば、
「ええもの獲れた。あまりええ、泊れ」
 と。そして今度は赤い顔面 (つら) して、ぐる りさ子分置いて、大きな盃で酒飲んでい て、女をお酌とらせていたところさ行っ て、
「俺だは酒を持って来たほでに、おらだ の酒も飲んでもらいたい」
「そんな小さいものから、この盃さ一杯 になるもんでないべちゃえ」
「いや、そうでない。魔法のヒョウタン だから、上がって呉 (く) ろ」
 と言うて、なんぼ注いでも注いでも無 くなんねので、不思議だ。とても美味い 酒だ。こんな美味い酒、よく持って来た な。昨夜の肴出せなんて、人を切ったの、 肴に出さっで、これは美味いなんて言っ たげんど、食う振りをして、みな見えな いようにして置いっだところが、
「貴様も飲め、貴様も飲め」
 と言うもんで、子分さ飲ませたら、
「いや、美味い、いや、美味い」
 そして、
「いや酔えた、酔えた」
 なんて、自分も飲んで、頼光だは逆に 強くなったど。
 片っ端から鬼はみな眠ったど。酒飲ん で。酒呑童子はうまいうまいというもん で、飲ませて酔わせたところぁ、それも そこさ転んで眠ってしまったど。
「こんどは大丈夫だ」
 と言うもんで、笈からヨロイ・カブト を皆出して、天皇から七枚カブトをも らって、頼光さまはそいつを着て、子分 をみな切って、女衆を逃がして、大根・ 蕪を切るように、みな切って、一番おし まいに酒呑童子の首落としたところぁ、
「騙さっだ、騙さっだ」
 と言うもんで、ブウブウと、まず飛ばっ で、なんとも困った。なんとかと、頼光 の頭ばりねらって、カブトの上さあがっ て、噛みついた。頼光さまはその重みで、 ベダーッと腰折れになってしまったど。 そこさ渡辺と金時など、やぁやぁと来て 頼光のカブトを脱いでみたらば、六枚に 歯立ってたった一枚だけ歯立っていね がったど。そんで助かったど。そんで天 皇も喜んだど。
海老名ちゃう
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