14 猿蟹合戦 

 毎日毎日の雨降りで、何とも石は流っ だりなんかえして、腹減ったげんども、 蟹はいらんねくて、石の陰さピターッと ひっついて、水の少なくなるまで待ちて いたうちに、お天道さまも出来やって水 の音もコッコッコッと、ええ塩梅になっ たから、流されるなんていうこと案ずっ こともなかんべとて、石の上さあがって いたところ、何だか握り飯みたいなもの 見えるもんだから、
「あそこまで行ってみっか」
 なんて、何落っだんだかなと思って、 人に見付けらんねように、道の草ぶく、 横這いに這って行ってみたところぁ、大 きな握り飯落ちったど。これは仕合せな、 これはよかったと思って、人に見つけら んねように、モクモクとして、握り飯食っ て、
「俺は、こいつみな食 (か) んねから、今度仕 舞ってで腹減ったとき食うべ」
 と思って、背中さ上げて、ずうっと家 さ来て、戸棚の中さ入れてたところぁ、 猿ぁ来たずうもんで、山で見てて、蟹は 握り飯拾ったのを見てて、
「俺も食って呉 (く) らんなね」
 と、途中で柿の種子拾ったど。その柿 の種子持 (たが) って、
「何としった。蟹どの」
 と言ったところが、
「いやいや、ひどかったな。この雨では。 腹減って仕様なくて、やっと今日まず腹 くっちくしたところだ」
「俺ぁ山で見っだ。あんだばり腹くっち くしていらんねんだから、俺と分けて食 ねが」
 と。
「俺ぁ難儀して持って来たのだ。この次 に腹減ったとき食うのだもの、呉 (け) らんね ごで」
「俺は、唯呉ろというのでない。柿の種 子もって来たからとりかえろ。この柿の 種子は一生懸命で実 (な) らせさえすっど、毎 年食れるもんだ。んだから取換えろ」
 と、騙して戸棚から出して、猿ぁ喜ん でみな食って行ったど。そして今度ぁ、 毎日毎日、
   芽出さねど鋏切る
   ならざら鋏切る
 と、となえているうち、秋ぁ来て実 (な) っ たど。そうすっじど、食いたいげんども、 もぐことは出来なくて、熟して落ちたと き食うべと思って、毎日下から見っだど。 そうすっじど、また猿ぁ、
「今度は美しくなった。あいつまた俺ぁ 食って呉れんなね」
 と、山から見て来て、
「実らせたね」
「やっと実った」
「ほんじゃ、もがれっか」
「ええ、落ちるまで待ってでいっから、 もいでもらわねったて、ええ」
 と言うげんども、猿だから、ワラワラ と木さあがって、自分ばり美味いとこ、 うまいとこと、自分ばり食って、そして、
「なえだ、まず。俺ぁ実らせたなだもの、 そがえに自分ばり食んねごで」
「いや、俺ぁ柿の種子と取換えたからこ そ、実がみのったのだ。俺のだごで」
 と、木の上さあがって、それ食いたい ごんだらば、と言うもんで、鼻糞くっつ けたり、尻さ当てたりして、蟹どこさぶっ つけたりして、ええのなど寄越さねがっ たど。そして、蟹ぁ焼いて、
「猿ぁ尻ぁ赤まっか」
 なんて言うたらば、ごしゃえで、いっ ぱいふところさ入っだ柿、毎日毎日食い に来て、持って行く勘定したの、ごしゃ えで逆さに降りて来たところぁ、みんな 落ちたの、ワラワラと拾って、蟹は隠っ だごんだど。
「よしよし、まず晩に、仇とりに来っか ら、そっけなもの、じきに吹っ飛ばして、 ひっつぶして呉れっから…」
 と言うもんで、猿ぁ行ったど。
 そうすっど、柿食ったええげんど、恐っ かなくなって泣いっだど。そうしたとこ ろぁ、こんど、アチャコモ・カチャコモ という音するので、何だかと思ったら、 針が来て、
「なんとして泣いっでらった」
「こうこういう訳で、晩げ俺ぁ殺されっ どこだ」
 そうしたところぁ、コロコロコロコロ というもの来たから、何ぁ来たと思うと、 栗など来たので、その話をした。そうすっ ど、ブンブンブンというの来た。蜂など 来たど。そんでもそんがえなものばり 寄ってみたって、あの猿にはとうてい敵 わね。なじょしたったて分かるもんでな いからと、また泣いていたど。ドダェン・ ドダェンと何か恐っかないもの来たかと 思ったれば、臼など来たど。
「なんと泣いっだ」
「こういう話だ」
「あんな猿など、一打ちにしてくれっか ら、心配すんな」
 と。昆布なの、ペタリペタリと来て、
「蟹は縁の下の石の下さ隠っでいろ。そ れそれに猿ぁ来て、火ほげんべがら、そ んときに灰 (あく) 持って目さ入れっから」
 と栗。蜂は、
「目洗いに来んべから、俺ぁ刺す」
 針は、
「寝床さ来んべがら、俺ぁ刺す」
「たしか帰って行くとき、足引っぱって くれる」
 と昆布は言う。そして今度は、
「俺は仇討ってつぶしてくれる」
 と臼は言うもんで、みんなそこで話合 いして、てんでに別れて、そこそこにい たど。そしたところぁ、
「なんとしった。仇討って呉れんぞ」
 と言う声するもんだから、なんぼ石の 下さ居たったて、恐っかなくて、ピッタ リしていたそうだ。そしたば、やっぱり、
「暗くて分かんねから、火焚くより他ない」
 なんて、火ほげたところが、灰持って 栗はボーツンと目をめがけて投 (ぶ) ったど。 そうすっど、
「熱い熱い、まずまず、入り水さ行って、 目洗って来んなね」
 と思って行ったところぁ、蜂に刺され る。
「いやいや、何者を頼んでいたもんだか、 こりゃ寝んなねまず。明日の朝げだ、ま ず」
 と、寝床さ行ったところぁ、針はツク ツクと刺して、とにかく居らんね。
「ほんじゃ、明日、出直して来る」
 ほして、出てきたところぁ、戸の口開 けたら、昆布ぁ足ツルンと滑 (す) めらかした ところさ、臼はドダェンと落ちて来て、 つぶしたど。
 あんまりずる賢こいことしたから、み んな堅い真面目な者さだと、加勢して 呉 (け) っけんども、猿みたいなものは、分か んねもんだ。
海老名ちゃう
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