2 蜘蛛の化物 

 むかし、ある寺さ化物出るんだったど。
「荒 (あら) い人、こっちさ来る」
 という話で、その人をお迎え申して、 退治してもらうことになったど。その人 は鬚生 (は) やして、袴はいて、とんでもない 人であったど。
「ここらに化物出だずぁ、あるどから、 そこさ俺は来たどこだ」
 と言うので、みな大喜びで、その寺さ みんな行ってみたところぁ、蜘蛛の巣だ らけの、とにかく昼間だって暗いような、 恐ろしいような寺だったど。その人ぁ、 その寺さ、夕方入って、
「いいから、貴様だ酒持ってこい」
「ほんじゃ、酒などなんぼでも上がって おくやい。焚物もたくさん持って来たか ら…」
「あとはみんな帰れよ」
 と、火どんどん焚いて、いつ来 (く) っかと 酒飲んで待ってだど。
 そしたところが、襖の向うで、音する ので開けたれば、一つ目 (まなぐ) の大きなオデ ンブチ来たっけど。そいつとにらめっこ したらば、そいつは居なくなったど。そ したらまた生臭いような風吹いて来る。 そしたら、
「今晩わ、入ってええがんべが」
 と三味ひいて女が来て、
「俺は目が見えないで、ごめんなさい」
 そして上がって、とにかく溶けるよう な三味ひいて、唄うたって、眠 (ね) むかけ出 るごで。それから、
「俺ぁ小便しに行ってくるから、この袋 を決してお前いじんなよ」
 と置いて行ったど。やっぱし見たく なって、そっと引き寄せてみたところ、 ピタッとひっついて、手動かねくなった。 こんどこっちの手剥 (はが) すべと思うど、こっ ちの手も握らって開かねくなった。
「さぁ困った。あれが来るべ」
 こんどは足掛けて取んべと思うど、足 もひっついて、動かねくなった。
「そりゃ、いじるなと言うのに、いじっ たな」
 と、ゲラゲラって、舌 (べろ) 出して笑ってい ると、その人はいろいろな神さまにお願 いしたど。そしてクランと掛けらっだ時、 神さまのおかげで、ちょっと右手は直っ たど。その右手で剣を抜いて戦ったとこ ろが、キャーッといって逃げて行ったど。
 朝げに、みな来るばり待っていたっけ ど。そうしたところが、
「食 (く) わっだべはぁ…」
 という音して、
「いたか、いたか」
「いたいた」
「化物であんめえか」
「いや、ほでないから早く来て呉 (け) ろ」
 と呼ばって、
「確かにキャーッといって行ったから、 血ぁんべがら、そこ辿って行ってみろ」
 みんなは湯わかして、ペタペタ体に喰 付いたのを取って呉れたりして、
「蜘蛛の奴であんめえか、鳥 餅 (もっち) みたいな もんで、ひっついた」
 そしたれば、仏壇の方まで血流して、 仏壇どこさ穴あけて、そこから出て人 喰ったもんだってな。それから仏壇どこ で唸り音する。見たれば光る。
「煮湯かけろ」
 と、みなでヤァヤァかけだば、夫婦の 蜘蛛の化物だったど。とうびんと。
海老名ちゃう
>>牛方と山姥 目次へ