1 牛方と山姥 

 夕方になったもんだから、
「早く歩 (あえ) べよ、早く歩べよ」
 と、牛 (べこ) はめいめい啼くど。そうすっど、 おうおうという音するので、誰か来たか と思っていっど、
「からうお一本呉 (け) ろ、からうお一本呉ろ」
 と、音立てる化物だったど。
「ほう」
 と、うしろさ投げてやっど、ガリガリ ガリガリと音する。牛 (べこ) は啼いていて、
「早く走れ、早く走れ」
 と言うげんども、牛 (べこ) なもんだから、 ウォーンウォーンというて走らんねので、 化物は皆食い上げて、あげくには、
「牛まで呉ろ」
 と言わっだど。何とも仕様ないから、 少しむごさいげんど、牛置いてわらわら と行ったば、牛はめいめいと啼いていた が、音しねぐなった。食ったなと思って いるうちに、ぼっこれ家あったから、入っ て梁の上さあがって見っだところぁ、そ こは化物の家だったど。
 化物入ってきて、
「からうおも食ったし、牛も食ったし、 何とも腹くっちいげんど、酒でも温 (あた) めて 飲むかな」
 と言うて、鍋さ酒温めて、大きな背中、 火さ向けて背中あぶりして、クランクラ ンと眠むかけしったうちに、天井さ青芋殻 (おのがら) あったので、それで酒ばツーツーと皆 飲んでしまったど。
 化物は目覚まして、
「火の神さま上ったか、火箸の神さま 上ったか」
 と。
「そんでは、餅でもあぶって食うか」
 と言うもんで、戸棚あけて餅あぶった ど。片端からあぶって、ホカホカとふく れたの、チクリチクリと刺して、皆天井 さ上げて食ったど。
「今日は牛も食ったし、火の神さまでも 上ったから、寝んべ」
 と言って、
「今日は、あんまり重たいから、石の唐戸 (からと) でなく木の唐戸さでも入って寝んべ」
 と寝たと。そしたば、があがあといび きかいたから、下ささがって来て、唐戸 さ錠かけて、火焚いて湯をわかして、キ リキリキリと、キリで穴あけたど。
「こりゃ、隣のキリキリ虫、さやずるほ に」
 と寝っだってな。そして煮立ったな湯 ば、じゃじゃと掛けたど。そしたら、
「助けて呉 (く) ろ、助けて呉 (く) ろ」
 と言うたど。そしたら、
「助けらんね、牛まで食った敵 (かたき) とって くれる」
 と、音立てて殺したど。そして開けて みたら、下駄の化物だけど。
 んだから、きれいに仕末しておくもん だ。
海老名ちゃう
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