34 猫の宮

 まいど、高畠というところは御領和田と言うて上杉様の領地ではなかったと。それである旦那衆の息子がいたったと。そしてオカタもらって、余程もよってから、なんだかオカタは毎日毎日青ざめて来たと。便所ささえも行って来ると青ざめて来る。奇態だなと思って、よくよく青ざめて来るようになったので心配していたと。
 その家に三毛猫の大きな飼っていたと。その猫は、近頃、オカタが便所さ行くと便所の口さいつでも、御飯(まま)食ってたの止めても、つくねんとしているもんだったと。
 その次の日も、「あの畜生、おかしげだ。男猫だと言うても、人に対してはそんなことない訳だげども…」
 と、小吝気くさく思ったというのだ。次の日もオカタが便所さ行くのを見て、ムックラ起きて、便所の口さつくんとしている。
「畜生、ほに!」
 と、吝気して、床の間から刀持って行って息子は猫の首ぶった切ってしまったと。そうすっど、首ぁもげて、何処(どさ)か飛んでしまったと。
「なんだ、ぶった切ったの、首はあるわけだな」
 と見たげんど、首ぁない。そして奇態だなと思っていたら、便所の梁の上さ何かガサガサ・バタンバタンという、すばらしい音がしたと。ところが便所の梁の上から、大きな蛇の喉首さ、がっちりかぶついた猫の首が、ドタンと蛇と一緒に落ちて来たと。そしてその蛇を退治したと。そして見たところぁ、大蛇というのは人の血を吸い上げる力あるもんだから、オカタは血を吸わっで、青くなったのだったと。猫はオカタが蛇から呑まれでもすっかどて、番に行くのだったと。後夫も、
「こういうごんだれば、俺が悪かった」
 と、猫の宮を建てて、祀って祟ったりしないようにしたのだと。

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