25 大二百刈

 大二百刈というのは、畔藤村にある田だ。その田は一枚で二反五畝で、このぐらい大きい田はこの辺でなかったと。そんで杉沢の旦那衆がその田の持主であって、若衆の十四五人も使っていた。そんで田うないは見えっからだげんども田の草とりというと旦那さまが、
「終(お)えたか」
 と言う。行ってみっども縁の方とって中はさっぱり取んねがったと。大きいもんだから…。そうすっど旦那はいろいろ考えて、
「俺の若衆、ありだけこの田さ来んのだから」
 と、なんぼ飲んでも、なんぼ食ってもええように一斗樽を田の真中さ、台置いてその脇さ包金で酒の肴買うの、ニシン代とイカ代の金包みをおいて来たと。そして旦那はこじらねふりして、
「若衆、若衆。終(お)えたか」
「終(お)えだっし」
「何かないがったか」
「何もないがったな」
 そん時その家に下女いたったと。その下女はオボコ一人持っていたったと。
「アネコ、あんだ田の草とったことあんべぁ」
「田の草とりは得手だ」
「ほんじゃ、あんだ一人行って、何日掛ってもええからとって呉ねが」
「はい、し」
 そしてアネコ一人ばり、二番草とりに行ったと。アネコはそうして請負って行って、女なもんだから堅いもんだし、オボコ背負った侭一生懸命入ってとっていたったと。そしてなじょかして極めねげんばなんねべと思って極めたところ、真中さ大きな樽あっけど。そいつさ包金まである。そしてあんまり仕事さ一生懸命なもんだから、背負ったオボコの首ストンと抜けて、首もないがったと。そして樽ば見付けて、樽背負って抜首したオボコ背負って夜上りしたと。
「旦那さま、やっと終えたとこだ。そんであんまり暗くなったので尋ねて来ないがったげんども、オボコの首抜けて行ってないごんだ。その代り樽と銭、田の真中にあんの拾って来た。旦那さま」
「よくお前は自分の子供の首ぁ抜けるほどまで一生懸命でとった。ほだごでな。女一人で二反五畝もある田の草とり終(おや)したんだから、そいつあんだなだごで。そんじゃ樽と銭はあんだに呉れる。オボコの供養に俺は地蔵さまを建ててくれる」
 地蔵さま建てて杉沢のお観音さまさ寄進したったと。どーびんと。

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