18 母の遺言

 むかし、年寄りのオッカ一人いたった。そんでその家の息子というのは、中々どんずやりで、
「おらだ若い時に、なぁ、うんと心配して山買って、杉植えておがしったなの、『ここには何本あるなぁ、おとっつぁん』なんて楽しみにしてたもんだ。ほんでも、にしゃ(お前)と言えば何にも知らねで、そっちの杉林売っては銭使い、こっちの杉林売っては銭使い、離れ畠なの、めんどうくさいからと言うて、そっち売りこっち売り、ありさえすれば百姓ざぁ、土地ぐらい有難いものはないんだから、おらだ買ったの皆売る。そんげなことしていたらば、俺など生きている内は小癪語っじだげんど、俺など死んだら、ぺろっと無くすんべ。にしゃだ食って行かんねぐなんべ。俺はじきに死ぬのだから。ただ死んだってもな、にしゃ、なじょなことしてるか、稼いだか遊んでいたか、木売ったか、この棺さ入れらっじゃて、木の節穴から、ぺろっと見えるもんだと。死んでからざぁな。そんで、にしゃ若しそんなことしたらば、俺は毎晩節穴から出はって、にしゃ眠ったとこ、ズイズイと撫でて呉(け)る。そしたらば、寝ても起きてもいられんまい」
 そして婆さまは死んだと。そしたところぁ、その息子も考えて、
「いやいや、俺もあれほど苦心して貯めたな、あの杉林、離れ田など、俺はみな売ってしまった。オッカに言われるも無理はない。オッカは死んだんだし、幽霊になって、のぞこんでるとすると、その幽霊なんざぁ、なじょして来っかも分んねし、とにかくオッカ言う通りに、うんと稼いで、使わないで、オヤジの貯めっだくらいの田地、田畑、また杉林など買えば、決して幽霊など出んまいから…」
 と、それから一生けんめいで稼いで、元の身上の倍ばりに伸ばして、その息子ぁ死んだと。
 んだから、母の教えなんというものは、大変なもんだなぁ。

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