16 栗のイガ ― 祭文語りの語った話 ―

 まいど、貧乏ものの息子がいたったと。それから、旦那衆の娘がいたったと。そんで旦那衆と貧乏だげんども、やっぱり恋に情義なんどはないもんだと言うもんだ。本当に仲よしになってしまったと。ほんで、娘は、
「あの人さ嫁入(ムカサ)って行きたい」
 と言うげんども、
「あんげな貧乏な家さ、おら家の近くで行かれるもんでない」
 と、うんと親父は反対して、見合うような旦那衆の息子と決めたと。
 そうすっど仕方ないもんだから、娘も、
「こういう塩梅で、むりにおらえのおつっぁまする、何とも仕様ない」
 と語ったと。息子は貧乏だげんども、中々賢こいがったと。その息子はこう娘さ教えたと。
「あんだな、あんだ行くとこの聟なんて、いやいや大きくて大きくて、丁度膝かぶほどあると。ほだからあんな者さ嫁に行ったらば、一晩で息の根止まってしまうごで。決して嫁に行くもんでない。あんだの家の裏に丹波の大栗がある。あの栗のイガ拾って行って、こっそりそのイガを結(つ)けて行ったらええ」
 と教えたと。
 そして旦那衆の息子さ行って、
「やいやい、どこそこの娘もらうどこったかい。そいつはおめでたいことであっけんども、実はなあの女というものは何というたらええんだか、針のような毛生えていて、それに刺っだら、片輪になる。あんだ、一ぺんで役立たなくなる。膝かぶでも曲げて試してみたらええんねが…」
「はぁー」
 そして祝儀となって三三九度の盃も終えて床祝いも終えた。そしてそう言わっでいたもんで、男の方が膝かぶを曲げ、女の方は大栗のイガを出した。
「いたた・た・た…」
 と友だちが言うのと違いない。こんなものオカタにして置かんね。と思うし、女もあんなに大きいのでは、やっぱり駄目だ。こんな者のオカタになったんでは、俺は一晩でも生命にたまんないから、いらんね。と床祝いしたばりで、その晩の内にやめてしまったと。
 それから、次の日、
「やいやい、なじょな塩梅だけ?俺の言う話は嘘だったかい」
「いや君は御親切なもんだほに、本当だ、まるで栗のイガのようなガラガラという、あんな者をオカタにしておかんねがら、ボダしてやった」
 こんどは女さ行って聞いたところが、
「なじょだっけ」
「あんだ言う通り、まるで膝かぶまげたように大きいもんだった。あんげなもののとこに嫁に行ったら息の根とまってしまう。んだから床祝いしたばりで帰って来たずだ」
「ほだべぁ、ほだから金持ちってなていう者さ行くもんでない。親も親だ。あんだもあんだだ。俺と一緒にいればええのに」
 と言った。その人と一緒に一生安泰に暮したと。んだから賢こいものにはかなわながったと。

>>とーびんと 工藤六兵衛翁昔話(三) 目次へ