10 床屋の弟子

 まいど、床屋に弟子いだったと。その弟子も一生懸命で床屋やる。そんでその師匠も、
「いや、ここらではよく皆んなお観音詣り一生けんめいやっから、七観音さ毎日お詣りして、そして昼間一生けんめい稼ぐとええ」
「なるほどなぁ」
 と、御詠歌もおぼえて、毎日、聖観音・准(じゅん)胝(てい)観音・馬頭観音・如意(にょい)輪(りん)観音・不空(ふぐ)羂(けん)索(じゃく)観音そして千手観音と十一面観音にお詣りしったったと。何回もお詣りしたところ、自分は満願の日にこう言わっだと。千手観音さ行ったところが、
「お前は中々熱心な信心家だ。そんで俺の言うことさえもお前が出来っこんだれば、本当に日本一の床屋になられる」
「はてな、今日はいそがしいから…」
 そして十一面観音さ行った。そしたら、
「あんだも中々信心家だ。後にはすばらしい床屋になられっど思う。そんで俺の言うことをお前がされっこんだらば、すぐに日本一の床屋になられる」
 と、千手観音と十一面観音に妙なこと言わっだ。
 次の日、すぐに十一面観音さ行った。
「なんだべ」
「あんだ床屋なんだから、俺の面のヒゲ、鼻の穴も耳の穴も皆剃らんなね。そいつ一日の内に綺麗にされっこんだら、日本一の床屋になられっこで」
 なんぼなんだて、一人の頭など簡単なもんだと思って、
「んじゃ、され申す」
 次に行ったのは、千手観音だった。千手観音も、
「俺は手ざぁ千本持ってる。そんで手千本の爪と足の爪と千と十本ばりになる。そいつの爪切りだ。一日できれいに切られっこんだらば日本一の床屋になれる。床屋というものは、鋏・剃刀どっちも使わんなね、こいつは俺の爪切りは鋏でええごで」
「あまりええ」
「ほんじゃ。何日の日に」
 と、お観音さまさ行ったどこぁ、千手観音は手千本出して、パラッと開いて、ホラと爪切らせたと。いや、これの楽でないことは…。そんでも何でもかえでも一日で切った。それから次の日、十一面観音さ行ったどこは、十一面皆出さっだ。
「俺の面、この通りだから、どうか床屋しておくやい」
 頭鋏むやら、ヒゲ剃らんなね。鼻は剃らんなね。十一だから、これもまためんどうくさい。んだげんども、そいつも立派にやって日本一の床屋になったけと。どーびんと。
 んだから、何でも修行すっときというものは、一苦労さんなねごんだけと。

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