25 笠地蔵

 貧乏して、食うにも食んねような貧乏なじじとばば、年取りの晩げ、
「この笠売って、年取りしんべはなぁ」
 て、根性のええじじとばば、やっと細々と暮しったな、町さ笠売りに行ったど。
 その日ぁ一つも売んねがったど。そしてずうっともどって家さ来るどきに、お寺の前通ったれば、六地蔵立ってで、そいつさ笠もないで裸だから、雪ぁ降んな気の毒だから、
「そんじゃ、この地蔵さまさ、かぶせて行くべはぁ、今夜、何もないったってはぁ、地蔵さまさ笠おさめて、雪除(よ)けにええでかなぁ」
 て、そうして眺めて、
「地蔵さま、そうして年取れはぁ、おらだも何もないげど、家さ行って年取っこではぁ」
 て、来た。そしたら、ばば、
「なじょだった。まず、いま来たどこだ。遅くなったげんども、なんぼ笠売っど思っても売んねがったもんだから、さっぱり売んねもんだから、寺の門前の六地蔵さまさ納めて、裸つむりだったから…」
「ええことして来たなぁ、じんつぁ、おらだも雑炊でもして年取んべちゃはなぁ、何ないどてええ」
 なて、寝たんだてはぁ。そうすっど、なんだって外さ、ごやごや・ごやごやって、騒(にぎ)やかな音する。「ああ、ここだここだ、じさまの家ここだ」なていう音する。
「不思議な音する」
 て思って、奇態なことだ、こげな雪の降る晩、何来たことだべ。
「ここだ、ここだ、ここささえ置いて行くど、ええなだ」
 何かドサドサって音する。覗きもしないで家にいた。
「何だて、ここらにぎやかだぜ、何か物音したぜまず」
 て、朝げ戸を開けてみた。そうしたらそこさ米俵六俵あったど。地蔵さまが置いで行って呉(く)っじゃった。こいつで年取りしろて。んだから正直な者ざぁ、いつでも救われるもんだど。
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