24 猿蟹合戦

 あるところに、猿と蟹がいでやったど。猿と蟹は、よく山でなど遊んでたもんだごでな。この猿ぁ賢こくて、蟹が正直なもんだから、
「餅搗いで、食ねがぁ」
 て言わっで、餅搗いで、猿ばり力持ちだから臼でも杵でもするから、蟹は出しこばりしたど。糯米を出したり、何かを出したり。そして猿ぁ一生懸命搗いて、食うぁええげんども、こんどは山から臼転がして餅食う競争だ。山から臼転がしたら臼ばり転がって行ってしまって、餅ばり残って、猿ぁ臼さ喰っついて行ったもんだから、餅ぁ臼さあるもんだと思って。臼は空(から)っこなもんで、こっちさ来て餅ぁもらわんなねくなったど。そして、
「ほれ、ほれ」
 て、熱いとこ千切って、ほったぶさぶっつけらっだので、猿のほったぶは赤くなったど。
 あるとき、蟹はオッカサにヤキメシ握ってもらって行ったんだど。
 またそこさ猿ぁ行って、
「蟹どの、蟹どの、そのオニギリと、この柿の種子、取換えねが」
「そがな柿の種子と取換えだって食(か)んねぇも」
「食んねげんど、こいつ植えてなぁ、水さえ掛けでっど、大きくなっど、柿実(な)んなだ。そんどき食(か)れべ」
「そうか、おれ、腹くっちいから、呉れっから」
 そしてはぁ、蟹は土掘って種子埋めて、毎日水掛けしった。
     ならざら 切んぞ
     ならざら 切んぞ
 そうすっど、柿は早くおがってよはぁ、ほんに何年も掛かんねど実(な)んねえ木は、ぐんぐん・ぐんぐんとおがってしまったんだってはぁ。蟹は毎日水呉れるもんだから…。
 そしてはぁ、柿もなるようになったんだって。そして柿ぁなって喜んでいるとこさ、猿ぁ、またキャッキャッキャッと山から降りて来たんだど。そして蟹ぁ見つけて、
「こがえに柿ぁなったんだぜ、んだげんど、おれぁ登らんねもんだも、捩いで食んねなよ、赤くなったげんども」
「んだが、ほんじゃ、おれ捩いでくれんべ」
 わらわら行って捩いで呉っじゃ。そうしてうまいとこばり、赤いどこ捩いで食った。
「ああ、うまいうまい」
て、食って見せて、
「おれにも一つ捩いで呉れんだ」
「んだか」
 青いの一つばり、ばいっと捩いで、
「渋くて食んね、赤いどこよ」
 て言うど、タッペ(唾)引っかけて捩いで呉っじゃ。意地のわるいことばりして、自分ばり食ってはぁ、どんどん蟹泣かせてはぁ、山さでっしり持(たが)って、赤いのさはタッペ引っかけるやら、食(く)っ欠(か)くやら、意地のわるいことしたど。そうして痛くして蟹泣いっだんだど。そこさこんど蜂(ばち)なんか柿の木どこさ来てで、見てて、なぐさめで、
「わるい猿だ。まずこんじゃらば、あの猿退治して呉(く)んなね」
「生かしておかんねなぁ」
「どうしたらええがんべ」
「蜂はまず出てきたって、あがな小(ち)っちゃこい身体(なり)だべし、蟹なて言うたて、あがな小っちゃこいなだべし、なじょしたらええがんべ」
 そしたら栗も来て、
「みな小っちゃこいものばりで分んね、ほんじゃ臼いだ。臼庭にいた。ほんじゃ臼と相談すんべ」
「臼ぁ屋根の上さあがって、栗ぁ火所(ほど)の中さ入って、蜂ぁ水甕の中さ隠っでで、猿ぁ逃げて行くとき、ゴロゴロ転んで来て、ぶっつぶせ」
 そういう相談が成り立った。そしてこんど蟹が呼ばりに、猿に行った。
「遊びに来い」
 そして一生懸命で欺(だま)かして家さ寄せて、うまいもの食せるの、何だの彼(かん)だのって、そしてうまいもの食せたの何だのといるうち、栗は火所(ほど)の中さ埋(いけ)っだもんだから、バッと跳ねたもんだから、火ぁとんで、
「アチチチ…」
 て、火傷(やけぱた)した。あっちこっち。
「ほんじゃらば、水でもつけろ」
 て、蟹ぁ言うたもんだど。そうすっど水甕さ行って、柄杓で掛けんべと思ったれば蜂ぁ来て刺したんだど。いやいや、こんどは居らんねはぁ、どこさ行ったらええんだかはぁて、蜂ぁブンブン来て刺すんだし、逃げたど。戸の口から逃げんべと思ったら、上から臼にどぇんと落っで来らっで、捕らえらっで意地わるい猿ぁとうとう臼につぶさっだど。んだから意地のわるいことはさんねけど。どーびんと。
>>田の中の田三郎 目次へ