23 鬼      婆(弥彦山の鬼婆)

 山さ行ったらば、天女が下がって来たってよ。そいつ家さ連(せ)せ来て、美しい着物脱がせて、自分の家の嫁にしたんだど。そして嫁にしておいて、子ども持ったりなんかぇしてるうちに、だんだん年取って、天女だったなて言ったのが、鬼婆みたいになって、赤ン坊食(か)ねど生きていらんねぐなったんだって。
 そして『おっかな橋』の下さ、針持って来ったんだって。そして赤ン坊おぶって、女の人歩くと後から来て、赤ン坊の尻突(つ)つくもんだから、赤ン坊は泣くなだ。そうすっど、
「あねさん、あねさん、あんまりオボコ泣くでないか、ちいとまず降ろして乳でも飲ませてみたらなじょだ。降ろしてええがんべ」
 なて、親切に降させて、そして乳飲むなんて、こがえしているうちに、さらって行って食(く)い食(く)いしたんだど。そうしっど困ったと思っていたとき、
「そういう鬼婆が、おっかな橋さ巣喰ってでは困ったもんだ。ほんじゃ、おれ、この鬼婆退治して呉(く)んなね」
 若い者が刀持って、そこさ来て待ってだんだってな。そしてあるとき、その、子ども取りしったどき、若い者がいきなり手をぶった切ってしまった。そして手をぶった切って取ったのを家さ来てしまって置いたど。
 それから、自分の家さ、元気のええばさまが寝っだんだど。
「おれぁ、こういう風に鬼婆退治して来たんだ」
「なじょな鬼婆だったごどや」
「赤ン坊とって食うというから、そこさ置かんねがら、おれは退治して来た」
「なじょな手なんだか、鬼婆の手見せねが」
 て。
 そしたら、「あまりええ」て、自分の母親なもんだから、見せたんだど。ひっくりかえし、ひっくりかえし見っだど。そしてはぁ、婆さまが覚悟決めたんだか、片方の手ぁ出さないで、
「これぁ、おれの腕だ」
 て言うど、ぷうっと空さ飛んでしまったってよ。
 そして何処さ飛んで行ったかというど、それが越後の弥彦山さ飛んで行ったんだど。
 弥彦神社さ祀らっでいんのが、その鬼婆だど。
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