22 かちかち山

 むかしあったけど。
 かちかち山に狸が住んでいたんだって、そこさじさまが、焚きものとりに行って、焚きものとる前に狸とったなだど。そして家さ持って来て庭さ吊るしたんだど。そして、用足しに行って来るうちに、
 婆さまに、
「晩げ、狸汁すんなだから、んだから狸の足解いたりすんなよ」
 て、じさま言って行ったんだど。
 そしたら、狸ぁ、じさま行ってから、
「ばんちゃ、ばんちゃ、ちいとゆるめて呉んねぇか、足痛(い)ったいから、ちいとゆるめて呉んねぇか」
「んだげんども、じっちゃにゆるめんなて言わっじゃもの」
「ええごで、ちいとばり」
「んだな」
 て、ちいとゆるめて呉っじゃど。
「いまちいと、こっちゆるめて呉んねえか」
「ほんじゃらば」
 て、またゆるめて呉(く)っじゃど。そしてるうちに段々つん抜けてはぁ、そして取ってしまったど。そして庭の隅(すま)っこにあった米搗き杵で、
「このばば、腐っさればば、ほに、叩き殺して呉(け)んなね、じじの仇に、仇討ちして呉れらんなね」
 て言うもんで、ばさまのどこ杵で搗いて殺してしまったど。そうすっど、狸ぁ婆さまを菰さくるんで、庭の隅(すま)こさ押っつけではぁ、こんど婆さまの衣裳きて、そして尻端しょって、手拭いなどかぶってはぁ、晩げの狸汁の仕度しった婆さまの、牛蒡切りなどしったの、一生懸命で俎板で牛蒡切りだど。そしてじさま来るまでには、煮て置かんなね、一生懸命で、ばさまの真似して、鍋かけて待っていたど。
「ほげな、骨と皮ばりでどこも煮っどこない。尻のほったぶ(頬っぺた)でも煮て食せっか」
 ほうして、ジョキジョキ切って煮てはぁ、菰さくるんで押っつけて…。
 じさま帰って来た。
「じっちゃ、まず早いがったごとなぁ」
「ほだ、まず、用足しして来た」
「狸汁、拵(こしや)ったぜはぁ」
「ばっちゃ、一人で拵わっだのが、よく。荒びらんねがったが」
「荒びらっじゃげんども上手にして、まず、上がれまず、酒の一つも掛けて…」
 そうしてこんど、お膳拵って酒かけて、ばさま、
「まず一つ注ぐべ」
 なて。じさま喜んでお膳さ向って酒飲んだりして、狸汁だと思って食ったれば、
「何だか油っ気のないのだな」
「んだか、んじゃ古い狸だからだべ」
「なんだって、しないことなぁ、この肉。さっぱりうまくない」
 そしたら、こんどきと思ってはぁ、その婆さま尻尾出したど。
    しないも道理
    ばば 尻(け)っつの
    片ぴただ
 そして尻、さか上りして逃げてしまったんだど。そうしっど、じさまごしゃえではぁ、狸汁だなて…。とんで行って庭見たところが、菰の中さ、ばばを丸裸にして血だらけになって殺さっでいたっけど。そうすっじど、じさまは泣いて泣いて、泣き明かして、毎日泣いっだど。
 そしたば、そこさ兎遊びに来たんだど。
「なえだ、じっちゃ、じっちゃ、なんで泣いっで何しった」
「狸にまず、ばば殺さっじゃのよはぁ、うーん・うんうん」
 て泣いていんのよ。
「なじょに殺さっだのよ」
「これ、この通りだ」
「ほんじゃ、まず退治して呉れっから、狸退治に行って呉る。んじゃ、南蛮味噌、南蛮ないか、南蛮味噌拵って呉(け)ろ。おれぁ今日狸連(せ)て行んから、そして連せ来っから、その味噌だけ、まず拵ってで呉ろ」
 そして、こんど、兎は狸んどこさ、
「狸、狸、あんまりお天気いいもの、山さ焚きもの取りさでも行ったらええんねが、かちかち山には、木ぁうんといっぱいあんぜ」
「んだな、兎ど…」
 なて、まず二人で行ったど。そして枯木集めて一背負いずつ背負って来た。そして狸ぁ前さ立って、兎は火燧ち石で、カチカチ・カチカチって。
「なえだまず、カチカチ・カチカチって」
「なえだい、ここぁカチカチ山だもの、カチカチって言うごで」
 カチカチ・カチカチ。枯木だもの、そのうち火ぁついだ。
「なんだて熱いもんだな、何だべ、こりゃ」
「カチカチ山だから」
 そのうち、背中さ背負ってだの、ボンボンて、
「ありゃ、カチカチ山で火ぁ燃えだんだごではぁ」
 なて、背中さ火つけたもんだから、火ぁボンボン燃えて、そして、
「切(せつ)ない、切ない、痛い痛い、熱い熱い」
「ほんじゃらば」
 わらわら解いて呉(け)っから、なんて言ってるうち兎ぁ手間どっているうちに、背中焼けたんだど。
「ほんじゃ困ったごんだ。背中赤むけになった。薬つけて呉(け)っから、歩(あ)えべまず、おれぁええ薬持ったから、行ってみろまず、家さ」
 そして、じさまに拵わせた味噌もって来て、
「うんとええ薬塗って呉れっからなぁ」
 て、そしてこんど、背中さべっとりと塗ってくれて、赤むけの背中なもんだから、熱くて痛くてはぁ、ピリピリ・ピリピリって…。
「痛い、痛い」
 て泣いで、
「ほんじゃ困ったもんだな、この通り付けっど直るのだげんど、ほんじゃ何としたらええべ、その内に、あえっちゃ(あれに)行ってみんべ、背中洗いさ行(い)んか」
「んだな、背中洗いさでも行かんなね。ほんじゃ山の沼さ行くべ」
「ほんじゃ、おれと二人で行くべ」
 そうして、こんど、狸を土舟さのせた。兎ばり木舟さのって…。そしてだんだん行って、ここで背中洗ってくれんの、と真ン中さ行ってから、
「土舟だから、じきにぼっこれる」
 て、ジャクジャクと突っついて、そこさ沈めて、
「きさま、おれ、ばさまの仇討ちだからな。じさまに頼まっで来たんだから…」
 て、どんどん突っついて、とうとう沼さ沈めて殺してしまったど。どーびんだどはぁ。
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