(5)魚(いさば)屋が抜かっだ話

 佐兵は、藁仕事で売ってるもんだからな。高畠とか泉岡にな。注文して毎年、カマス買うのだど。カマスは綴(と)じて十枚にして持って行くのだど。そして持って行ったところぁ、魚屋では馬鹿にする気なもんだから、こうして裏表十枚のうちのを見たど。
「佐兵、佐兵、こいつはええなだげんども、中端(なかはし)あって分んねなぁ、こりゃ」
「なぁに?」
「中端あって、上ぁええげんども、中が不整いで分んねなぁ、こんじゃ分んね」
 て、返したど。そうすっじど、せっかく編んで来た、こいつで酒でも飲むべと思って行ったの、飲みぽげだ。ほんでも、いっこうごしゃがねで、
「ほだか、ほんじゃ今度ぁええの持って来っから」
 て行ってしまったど。
 そしてこんど、しばらくもよってから、魚買いに来た。塩引をな。
「塩引頼まっじぇ、一匹切って二十人前切っておくやい、若衆に頼まっで来たんだから」
 二十切ったど。一匹の魚切ったのだから、頭の方も尻尾の方もあるわけだ。
「なんだこりゃ、頭の方と尻尾の方と、中の方ど、中端(なかはし)あるな、こりゃ、こんじゃおれもいらね」
 て帰って来たど。魚屋、むかしの魚、そう切らっじゃもんだから、とんな損したど。カマスどこでない、佐兵も行ってしまったから、そいつぁ売り呆(ぽ)けだど。
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