7 狐のお産

 御所山のある部落で、そこのお医者さまがな、夜、立派なお侍の姿して来た者に、お医者さま頼みに来らっだったど。
「そこの家の奥方が、今、お産で難産だから、どうぞ早くお産させてもらいたい」
 て来らっだったど。そしてお医者さまは冬だったから、ソリさのせてもらって行ったところが、やっぱり狐だったから、立派な家さ案内された。そして寄ってみて脈をとったらば、人でない。狐だ。んだげんども、そのお医者さま黙って見て、お産させて来たんだど。そして次の日ソリ引かせてやった自分の家の若いものに、
「決して言うなよ、ソリの後尋ねて行って見てけろ」
 て行ってみたところぁ、そこの原の真中さ一枚蓆敷かってだ。そこでビールと鑵詰と何とか御馳走したものだど。それがころんと、ビール瓶が転がって、鑵詰が開かっていてだど。
「決して医者が夜中に狐をお産させたんだど。医者呼ばらっじゃんだどなて、世間から言わっじゃ人目悪(わ)れから、決して話しんなよ」
 て、口止めしたんだど。そして礼釈に、そん時熨斗(のし)紙さ立派に包んで出したげんども、開けてみたれば五円札だったど。むかしは五円といえば大きい金よ、その五円どこから求めたかといえば、百姓屋の丸蓑を持(たが)って、熊の皮だって売ったんだって。
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