13 和尚と小僧― 寒風が変わった―

 ある寺で、和尚とたった一人の小僧いだったわけです。
 その和尚さんが、大きなヒョウタンをとるのが趣味で、大きなヒョウタン作ったそうです。棚かけてはぁ、お客さんから、
「やぁ、みごとなヒョウタンだ」
 て、賞められるのが得意であったそうです。ところがある年、なんとヒョウタンが特別大きくなったそうだすな。とても大きなヒョウタンで、やっと持ったげのヒョウタン実(な)ったそうですな。そこで、これは何入れたらええかと考えたわけです。そこで和尚は考えて、寒中のいちばん寒い時、寒の入りから数えて九日、寒九の水を通せば、夏でも変らねていう。漬物から味噌から、何でも寒九の水を入れたそうです。それから考えて、寒九の日の風入れて、さかりの風のくるところさ、ヒョウタンの口あけて、小僧に大きいウチワであおがせて、風いっぱい入れたわけです。そして詰口びんとして、小槌でビーンとして、天井さ太い縄ではぁ、吊したわけです。そして、土用の涼しい風に使うどはぁ、ええこと考えたわけです。
 そうしているうちに、春は来て、夏は来て、とてもとても暑い日来た。
「こんど、ヒョウタンの風使った方がええな」
 というわけで、
「小僧、梯子持ってこい」
「はいはい」
 て、梯子もってきて、やっと二人がかりでヒョウタンを降して、
「小僧、蚊帳吊れ」
 て、本堂さ蚊帳吊って、ヒョウタンを、少しずつ風くるほど入れて、こんど、ぼうぼうあえいだけ、なんと冷たい冬の風がきた。
「ああ、ええなぁ。これはええことだ。あまり使えばなくなる。蓋コしておくはぁ」
 て、詰口しておいだ。
 また次の日も、和尚さん、いっぱい機嫌で帰ってきて、
「ああ、小僧、本堂に蚊帳吊れ」
「はい」
 て、次の日もやった。小僧は、
「うん、坊主、憎い坊主だ。ヒョウタンの水かけろから、棚かけろから、おればり難儀している。自分ばかりで、おれに何も風当てない。勘定のわるい坊だ。黙ってで、おれ、いつかやってみる」
 て、ある時、和尚がずうっと遠方の葬式さ行ってくるからて、
「小僧、晩げ遅くなるから、まあ、何でも気つけていろや」
「はいはい」
 だんだん、昼ごろになって暑くなってきた。本堂さ蚊帳吊って、小僧がゆっくりやる気なて、ヒョウタン降ろして、コンコン小槌で開けて、なるほど冷たい風、ひゅうと来た。
「ああ、ええなぁ、いやいや、ええなぁ」
 ウチワでぼうぼうとあおいで、そうして小僧は疲れているもんだから、眠込んでしまったはぁ。なんぼか眠てはぁ、日暮れなってでもの。目覚めたところが、風もないはぁ。
「いや、こりゃ大変だな。今に和尚来たら、なんぼかごしゃがれるか分んね。何とせばええどはぁ」
 こんど鉢巻きして、ヒョウタンさ腰かけて考えたわけだ。そうしているうちに、屁出てきた。
「ええ、腹くそわるい。屁でも入れておけ」
 て、口さプウプウとして、詰口して吊しておいて知しゃねふりして片付けておいた。それから間もなく和尚帰ってきた。
「ああ、あつい。本堂さ蚊帳吊ってくれや」
「はいはい」
「ああ、あつい。このヒョウタンあるんで助かる。小僧、小僧、小槌もってこい」
「はいはい」
 コンコンて。
「あっ、ふうん、ふん。くさい。何だこりゃ、くさい。これ駄目だ。小僧、何だ この風くさい。んねが。ひどいな、とても駄目だ」
「なんと、和尚さま、今日の暑さだもの、やっぱり風もくさくなってでねぇすか」
「なるほど、寒九の風でも、やっぱり土用の暑さでくさるもんだな」
 て、小僧はこれで災難のがれたわけだな。
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