1 化けものむかし

 むかしあったけど。
 山奥のずうっと山奥の部落で、何年か前から荒れてしまったやら、屋根は落ちて、大きなお寺があったわけです。草ぼうぼうと生えではぁ、和尚さんも居(おら)ないしはぁ、古寺があって、柱はころび、屋根は落ちる、板の間もあたりほとり皆落ちたりして、見るに忍びないような荒れ寺があったわけです。
 そこで、その寺に、ときたま旅から雲水の和尚さんが廻ってきたもんで、そういう和尚さんを村の人たち、願って住職にしてもらうどて、置いでもはぁ、そのお寺で、何が化けものいるやら、一晩のうちに食べられてしまって、無(な)ぇぐなるわけです。それではぁ、誰もはぁ、仏さま拝みに行く人もないもの、そのままなてだわけです。
 ところがある時、その部落さ、桶屋来たんです。タガをかける職人が廻ってきたわけです。わらじ履いて。
「タガ掛けるものないがったすか」
 て、廻ってきた。ところがある家で、夕方掛けたりして昼間の飯(まま)御馳走なていだけぁ、そこら辺のじいさんの話に、
「桶屋さん、あちこち旅廻って歩くげども、おら方(ほう)のお寺て、何が化けものいるやら、和尚さま、何人変っても一晩のうちに、みな呑まれるようだ。まず、いま困っているお寺だども、桶屋さんだてはぁ、そういうどさ来るよな坊さんでも知らねもんだべか」
 て、こういう風に聞いたわけです。ところが、その桶屋が、
「なるほど、そういうお寺もあるもんだすなぁ」
 そして、だんだん聞いてるうちに、
「まぁ、はてな、そういう家だどこだば、そういうこと好きだから、おれ、一つ、和尚になってみるかな」て。
「ほう、せば、和尚さま、お経覚えてるてか」
「ん、おれはまず、なんぼかお経覚えてるし、まぁ、おれ、一つ行ってみるぁ」
 ていうので、
「はぁ、ええがったなぁ」
 て、傍あたりみな喋ってはぁ、
「なんと、おれぁ、タガ掛けに来た桶屋、旅の人の桶屋で、お寺の話したけぁなぁ、なんと、そういう化けものだら、おれぁ一番好きだていうから、おれ、一つ行ってみる」
 ていうので、んだがら、
「それ、ええがったなぁ」
 て、日の暮れねうちに、まずはぁ、山のずっと奥の寺さ、登ったわけです。なるほど、まぁ、行く途中、木倒れたり、木折れたり、やっと辿りつくわけです。まぁ、よくよく荒れ放題な、人なの住まね寺だから、火も焚いておらねし、何も昔のまんまの寺、屋根はくされてるし、そして、そさ上がって、居間のあたり片付けて、村の人ぁ、食べもの二、三日食うだけの米でも何でもな、置いて日暮れになったけずぁ、おっかねがらみな行ってしまったわけよ。
 それからこんど、和尚さんはまず黙ってお茶のんで、
「はてはて、何がいるもんだべか、まさか、山賊だら金盗れば、まず人を殺すていうことない。食べるなて、果して食べるもんだべか」
 て、好奇心にかられたわけだ。そうしてるうちに、行灯(あんどん)に火入れて、八時、九時になっても風の音だし、何も来ない。眠ぶくなってきた。「はぁてなぁ」。うとうと居眠りしかけた。旅のつかれもあるし、眠りさ陥いろうとしたら、本堂の方でガダンと音、棚からでも落ちたような音する。
 こんど、ミシミシ、ミシミシ廊下歩いてきた音する。
「はぁ、来たな」
 そう思って、桶屋は細長い切れる鋭利な山(な)刀(た)を持って、衣の下さ隠して、いざとなればこの山刀でもって何とかすると思っていた。そうすっどススーッと障子あけて来たもんだから、何だと思ってみたところが、よう恐ろしいもんだ。真黒だ。人間だえだもんだども、まずとにかく手も足も毛さかさに生えだ、仁王さまのような人間だったわけです。そしてやっぱり衣着てるわけです。
「何坊主だもんだか」
 黙って、そこさ坐ったわけです。
「お前は何というもんだ」
 て聞いた。
「おれは、高野の入道だ」
 て。ほれがら、
「ほう。高野の入道ていうど、高野山から来たのか」
 また黙って、それから茶釜から急須を、茶出して、
「まぁ、呑んでくれ」
 て、やったわけです。そうしてるうちに、また本堂の方で、ゴドンていう音する。
「ああ、またやっぱり、化けもの、いよいよ集まって来たな」
 黙っていたら、またミシミシ、ミシミシと歩ってきて、また障子すうっと開けて、何と、見たところが、顔も首玉も手も足も、みんな赤い。どこもかしこも赤いような色した坊主だわけです。
「はぁ、面白いものも居るもんだ」
 大抵のものだら、おっかなくておびえてしまって、どうもならねども、さすがは修行つんだ桶屋だ。びくともしないで、
「おお、きさまは何というもんだな」
「おれは、さいふく白狐」
「ほう、さいふく白狐か、ああ、よく来た。まぁお茶をのんでくれ」
 またお茶立てた。それからまたガタンていう音する。
「はぁ、また来たな、何だ」
 また、廊下ミシミシ、ミシミシと来て、障子がらっと…。なんとこれもまた豪傑だ。やっぱり坊主だわけです。
「ああ、きさま、何というもんだ」
「おれは、キカンチンプクというもんだ」
「はぁ、キカンチンプクが、まぁお茶のんでくれや」
 あと来ねばええなぁと思って、なんぼかんぼも.くれば、とても敵わねぐなるなと思って、そうしてるうちに本堂の方でゴンゴン、ゴンゴンという音鳴る。
「何だかおかしいな音するな。今までの音とちがうな」
 ていたけぁ、こんど、
「フルダイコ、フルダイコ、フルダイコ」
 て、こう喋ってくる。ごろごろ、ごろごろとまくれて来るようだごで、何だ、そしたら障子開けてみたらば、まるで太鼓のような体の坊主なわけです。まあ、四人の坊主の怪物が来た。ほれから待っても、後何(なん)も来ね。ほれから、四方山話たて、化けものだし、黙っていた。こんど一番先に来た高野の入道が、
「この寺では始めにきた坊さんと、ジャンケンでもって負ければ、シッペ張りをやる掟になっておるんで、シッペ張りをジャンケンでやる。負ければみんなで頭さシッペ張りをする」
「ああ、んだか」
 こんどいろいろ四人、五人もなったもんだから、何回も決らなくて、最後に桶屋負けてしまったわけです。
「いや、こりゃ大変だ。何とかしたらええか、時を逃がしては」
 と、桶屋は度胸を据えて、
「よーし、シッペ張ってくれ」
 頭を向けた。いやいや、いやいや、痛いの何のて、石ころで叩かれるほど痛いわけよ。
「ああ、こりゃ何回も負けると、こりゃ、何(なん)た頭だてたまらね。これだばとてもこれで命とられるなだ」
 て思ったわけです。それからこんど、
「おれはちょっと小便に行ってくるから、待ってくれ」
 ていうので、桶屋が小便に行くふりして、土間さ降りで行って、流しの方から、昔の鉄の釜かぶって来たわけよ。それでまた拳したところが、また桶屋は負けたわけです。
「はぁ、ええがったな、釜かぶってきて」
 釜さバツバツ、バツバツするわけですよ。そしてこんど桶屋、三番目から勝ったわけです。桶屋勝ったげんども、シッペ張ろうとして、息ふっかけて、腰の山刀抜いて、頭、山刀で割ったわけです。したけぁ、後はグウグウ、グウグウて、どさが行ってしまったわけです。
 次々と桶屋勝って、三人まで頭切ってしまったわけです。みんなどさかいなぐなってしまう。最後に古太鼓と二人なっているうちにはぁ、古太鼓も負けてしまって、めちゃくちゃになってしまったわけです。
 それから、「あと来ねばええなぁ」と思って、黙っていたらば、何だか縁の下の方でうなり声が聞えてきたわけです。それからだんだん夜が更けてしまってはぁ、そしてこんど東の方が白じて来たわけです。
「ああ、こんど来ないな。この化けもの方、最後はシッペも、あれだもの、何で本性現わすか、分らね」
 そうしているうちに、夜明けだっけ。こんど、鐘がどの寺にもあるもんだから小槌でもって、ジャンジャン、ジャンジャン鳴らしたわけだ。そこで村の人たちも、
「それ、あの桶屋が無事でいた」
 でんで、村の者総出で、鎌でも山刀でもみな持ってはぁ、鍬でも持って山さ登ってきた。ところが和尚さんが玄関さちゃんと立って、知らん顔している。
「おお、みなの衆、大儀であった。まずみんなで縁の下を見てけろ。何だか昨夜(ゆんべな)化けものらしいもの来てあったども、まぁ、殺したようでも、まだ生きてだから…」
「ああ、おっかない」
 ていたども、
「ああ、大丈夫だ。おれ、山刀でみな頭割ったもんだから、大丈夫だ」
 そしてみんなで板の間を剥いだりして、まず見たところが、血だらけになってそこにいたわけです。
 一番先に来た高野の入道ていう化けものが、何と夜明けてみたところが、太鼓のムチの化けものであった。ほれからサイフク白狐というものは、鐘の化けものであったどな。キカンチンプクていうのは、池の緋鯉であったど。古太鼓は太鼓がめちゃくちゃに山刀で切られであったど。
 それで、化けものは退治したし、桶屋がそこの住職になって、こんどは心配ないていうわけで、村の人みんなで金出し合って、また木を伐って寺を修理して、屋根を葺いて、立派なお寺にしたわけです。
 それから、まず、無事安泰で、お寺が長く続いて、村の人たち、坊さんのおかげで救われて立派なお寺になったわけです。とんぴんぱらりのぷう。
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