31 豆こばなし― 爺婆と黄粉 ―

 じっちゃ、庭掃きしったらば、豆一粒落ちっだけど。そして、そいつ拾って、半分が種子、半分が黄粉にして、茶ほうじで煎って、こんど黄粉はたいだげんども、篩ぐべと思ったら、篩がなかったど。
「はて、隣の家さ行って、篩借っで来っかなぁ」て。
「隣の家さ行ぐじど、わらしども、なんぼなんぼいたぜ」
「そんじゃ大変だ。ないぐなってしまう。ほんじゃ、こっちの家さ行って借りるべ」
「こっちの家さ行ったら、またわらしども、なんぼ、なんぼ…」
「そっちの家さ行っても…」
「そっちの家にもわらしども…」
 数えたけども、どこの家にもわらしどもいっぱい、三、四人ずついたごんだど。
「そんじゃ、こればりの黄粉、みな分けてしまてからじゃ、おらだ、食うな無いぐなっから、じんつぁ、褌のはじで篩えはぁ」
 ていうたど。
「あまええ、あまええ、褌のはしのきれいなどこで篩うから、ばんさ」
 て、褌のはしでふるてだどこさ、わらしどもぁ、
「何しった、じんつぁ、ばんさ」
 て来たど。
「そりゃ、来た」
 ていうわけで、ふるってだ褌、ゴイラサッと褌したところぁ、じんつぁ屁たっだど。そして黄粉ぁ、屁たっじゃもんだから、みな吹っとんで行ったって。川向いの笹っ葉さ、みな食っついてしまったけど。
「さてさて、さてさて、困った困った。まずまず、まず。やきめしでも握って食うに、黄粉捕(せ)めに行かんなねごで」
 て。そしたば、
   じじは屁の実のうまいこと
   じじは屁の実のうまいこと
 て、わらしどもみな行がっで、じんつぁとばんちゃ、さっぱり食うべきでなかったど。とーびんと。
井上てい
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