9 食わず女房

 宵節供の晩の話だごでな。
「飯(まま)食ねおかた欲しい。飯食ねおかた欲しい」
 ていうから、飯食ねおかたもらったど。ほして、旦那さん、稼ぎに出はったふりして、天井からちゃんと見っだけど。五升釜さ、飯でっしら炊いで、やきめしにぎりはじめだもんだちけ。すっかりやきめしにぎり上げだれば、髪きれいに結ってだな、ずうっとみな解いで、そこさやきめし、みな入っだちけ。なじょするもんだと思って、お天井の梁の上で眺めっだれば、またきれいに、そのやきめしみな入れ上げてから、ちゃんと結って、帰り待ちでいだったど。
 んだから、それ見たから、いや恐っかない、恐っかないくて逃げだんだど。そしたらこんど、斧(まさぎり)持って追いかけだけど。逃げた、逃げた、逃げた。葭谷地から逃げて、血まみれになって、そこら一面血の海になったど。そしてこんどは、旦那さんが、よもぎの原さ行って隠っじゃもんだから、鬼婆来ないようにて、宵節供に、よもぎと菖蒲立てんなだど。
井上てい
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