17 源五郎鮒

 むかしむかし、近江の国に源五郎という魚獲りしてる人いだんだけど。そしてその人が近江の琵琶湖さ毎日行くようにして魚獲り行ったら、何だかきれいな香りして来る。
「何だべ、こだえ、ええ匂いかいだことない」
 匂いのする方にずうっと行ってみたら、松林のすこぅし向うの方に、何やらコヤコヤ、コヤコヤ話しながら、おかしいなぁと思ってみたら、そこに白い肌して真黒な髪で、きれいな女が水浴びしったんだけど。六・七人、
「あら、きれいな人、水浴びしった。これはきっと天人だかも知んない。友だちさ、『おれ、天人見てきた』て語るべなぁ」
 て思ったげんども、
「ほだな嘘だ、天人なの来てるわけない」
 て言われっど何にもなんない、何か証拠にないかなぁと、ほこら見たれば、松の木の枝さ着物ひっかかっていだんだっけど。ほして、
「あっ、着物ある。あいつ持って行けばええわけだなぁ」
 ていうわけで、ほの着物ばいきなり取って、ほしてハケゴさぎりぎり入っではぁ、持って来たんだどはぁ。ほうしたれば、他の六人の人がほの着物きて、スイスイ空さとんで行ってしまったげんども、一人の天女だけが着物取らっだから、天さ飛んで行がんねんだどはぁ。ほして源五郎さ追っかけて来たんだど。
「源五郎さん、その着物返して下さい」
 ちょっと天女だから言葉通じねがったがも知んねげんども、そういう気持で追いかけて来たわけだ。ところが源五郎は家の中さ入って行った。て、仕方なくて天女も家の中さ入って行った。して、無理無理、そこでは源五郎が天女ば奥さんにしてしまったんだどはぁ。ほして二人仲よくしてるうちに、子ども二人できてしまったんだどはぁ。そうすっど源五郎が安心して、
「こんど子ども二人出たから、どさも行かねべはぁ」
 と思ったんだど。
 あるとき、天気のええ日にふと考えたことは、
「着物も虫干ししねど虫に食れっどなんねんだ。虫干しすんなね」
 て言うわけで、裏の垣根んどこさ虫干ししたんだど。ところがはいつ見た天女がムラムラと天さ帰っだくなって、いきなりその着物きたけぁ、子ども二人つれてスイスイ、スイスイと空さ舞い上ってってしまったんだど。ほして源五郎が見(め)けだときには、もう人の姿見えっか見えねがぐらい高く上がって行ったんだけどはぁ。
「ああ、待てろ。上がて行かねでけろ」
 なんぼ怒鳴ってもスイスイ、スイスイ、たちまち見えなぐなってしまったんだどはぁ。ほして源五郎、なんぼしても子どもと、うんと会いだくて仕様ないげんども、何としても天さ行ぐごとできない。高い山さ登ってみたりしたげんども、何とも仕様ない。ほんでサンオキさ行ったんだど。ほこさ行ったれば、
「三百頭の牛をこやしして、朝げ暗いうち、田の土背負って来て、南瓜植えろ。んだど南瓜のツルぁ、スルスル、スルスル伸びて行って天まで届っから、お前の奥さんと子どもさ会われっから、そういう風にさっしゃい」
 て教えてよこしたんだど。
 源五郎は喜んで家さ来て、次々牛飼って行ったげんども、全部集めて二五〇頭しかいねがったんだど。ほんでも仕方ないから、その牛みな肥料(こやし)して、暗いうち田から背負ってきて、南瓜蒔いだんだど。したれば次の日から南瓜、スルスル、スルスルておがって行ったんだど。ほしてやがて雲さ届くようになって、あと毎日眺めてもその南瓜おがって行かねんだどはぁ。んで、源五郎は一生懸命ワッショワッショワッショて、そこさ登って行ってみたんだど。ほうしたれば大体四・五十間どこぐらいとこが届かねがったんだど。ほして、「おお、かぁちゃん」て呼ばってみたらば、かぁちゃんと息子だ、雲の上に居たんだけど。
「ああ、あそこさ居たりゃ」
 んだげんども、そこまで行かんねんだど。天の神さまは、
「お前も地上さ行って大変厄介なったそうだから、何とか天さ引き上げなさい」
 て言うもんで、雲、すうっと下さ落してよこして、源五郎が子どもと奥さんの居たどこさ、ヨイショと上がって行ったんだど。毎日只もいらんねもんだから、
「今日は袋から風出してけらっしゃい」
 て言うど、袋絞って風出し。それから、
「今日は雨降らせてけらっしゃい」
 て言うど、ジョロで雨まき。はいつはお空さ行って手伝っていたんだど。ほうしたれば、ある時、
「曇って来た方から雨まかんなねぞ」
 て教えらっだんだど。んだげんど曇って来ね方さまぐど、地上では人が大慌てすんな面白くて面白くてなんねんだど。
「ほれ、洗濯物入れろ、ほら降って来た。ほらそっち片付けろ」
 て、曇った方さなの馬鹿くさくて撒いていらんねんだど。天気のええ方さばり撒いて、はいつ面白くて面白くて、あはは…て下の方見っだうち、足つっぱずして雲からドシャンと落っでしまったんだど。ほして落ちる落ちる、どこまで落っで行くべと思ったら、近江の琵琶湖さ落っでしまって、人のままでいっどアップアップなて死んでしまうから、雑魚の鮒へなってしまったんだどはぁ。ほんで今でも近江の琵琶湖にいる鮒は源五郎鮒て言うな、その源五郎が鮒になったから、源五郎鮒ていうのだけど。ドンピンカラリン、スッカラリン。
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