6 赤羽又右衛門の力自慢

 体が非常に弱くて、宮生のお葉山権現さまに百晩の願をかけたど。そしたら何か力が満ちあふれるような気がしたもんだから、百貫ぐらいの石を持(たが)ってみたれば、持(たが)けるがった。て、自信ついて、それから非常な力持ちになって、参勤交代の折、江戸さ行ったら橋に鋲打ちしった大工がいた。なかなか三寸釘打てないようだけど。
「大工さん、大工さん、そんでは駄目だ。おれ打って見せる」
 ていうもんで、親指でベロッベロッと釘打ってみせたど。
「いや、お武家さま、すばらしい力持ちだ。せめてお名前を一つ頂戴したい」
 と言うたら、
「いや、名のるほどでもないけんども、おれは上山藩の赤羽ていうもんだ」
 こういう風に言うて通り過ぎて行ったど。
 して、今でも東京には赤羽という地名が残っている。それは赤羽又右衛門のそれであるど。
 ところが自分ぐらい力あんの、この辺にはいないんだなて、自信がついて、たまたまお湯さ入ったら、上山の共同浴場さ入ったらすばらしい体格の盲人が入ったど。で、いつとなくその盲人と力自慢の話になって、そして、
「そんでは背中流しっこすんべ」
「ええがんべ」
 ていうわけで、昔は西洋タオルなてないもんだから、手拭をキリッとしぼって逆さに、力まかせその盲人の背中こすってやったら、こっくりこっくり居眠り始めだんだど。その盲人が、「ああ、ええ気持だ」て。普通の人だら、皮膚みなたくってしまうてだなね。
「それじゃ、お武家さま、おれやって上げる」
 て、当てたばりで背中のいたいこと、ひりひりいうていうなだど。それでこんど次はシッペイのはじきくらになったど。
「んでは、おれから始める」
 ていうわけで、赤羽又右衛門は力まかせはじいた。
「お武家さま、もっとお強いの、頂かんねべがっす」
 て言うたって。こんどはものすごい力入っで、パチッてやった。ほんでも、
「わたしのちょっと進んぜっから、お手を拝借する」
 て、手出してパチッと来たら、目から涙出るほど痛がったって。そしてるうち見る見るその手が伸びた。これはかなわんと思って、ヒョイと又右衛門がよけたれば、そこは盲人のあさましさで、バシッていうたっけぁ、切石がザクザクなったって。結局、湯神さまがあんまり自慢するもんだから、座頭に化けて力くらべしたんだど。
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