33 山鳥むかし

 じさま早く起きて、戸の口払いと言うてな、ここで戸の出入口さいって、そして道踏みしったずも。そしたば向いの山から山鳥とんで来たずも。
「ああ、とんできた、とんできた、おれどさとんでくればええ」
 て思っているうちに、じいさん踏んでだすぐ先さ来て、くたさっでしまったずも。あんまり吹きに迷ってか、酔えたかして…。
「はぁ、ええがった。これはおれのさ授いたなだ」
 て思って、砂掃きで叩いて持って来たど。
「ばさ、ばさ、今朝はええもの取ってきた、道踏みしった丁度先さ山鳥きて、ぶっついたから、取って来たから、おれ、橋の雪も落して来ねねから、毛ひいて、おれ入るまでに煮ておけ」
 て、そう言うて行ったど。そしてはぁ、あんまり深雪なんだから、じさ、あんまり手間どるうちにはぁ、山鳥できてしまって、ばさ、塩梅(あんばい)見しったば、うまくてうまくて、こたえらんねで、一皿食い二皿食い、はぁ、一鍋みな食ってしまったど。そうしっどはぁ、
「何として、これ、じさに言いわけしたらええんだかなあ、その代りするようなものもないし…」
 と思っていたじに、猫ニャアと来たから、飼ってた猫むごさいようでもあっども、仕様ないと思って、猫のチンチコの半分とばばのぺっぺ半分煮たど。そしてこんど、
「ばさ、ばさ、今朝は雪ふかくて、ひどかった。やっと今終(おや)してきた。山鳥煮たか」
「煮た煮た、煮すぎたくらいなってはぁ、こげくさいような匂いする」
 なて、ばさ煮っだずま。こんど鉢さ入っで、食ってだけざぁ、
「何だか匂いのするような山鳥であったなぁ、お前も食え」
 なんて言ってたど。
「おれぁ腹病(や)めて食んね」
 て、食ねがったど。そうすっど、家の前の掛竿さ美しい鳥飛んできて、
「しないし、くさいし、うまくない山鳥だ」
 なて言うていたば、
   しないも くさいも 道理だ
   猫のチンチコの片割れ
   ばんばペッタの片割れ
 こう言うてさえずっずも。
「なんだ、異(い)なこと語んな、ばさ」
 て言うど、ばさ、気掛りで追うずも。そうすっどまた飛んできて、
「しないもくさいも道理だ、猫のチンチコの片割れ、ばんばペッタの片割れ」
 て、そう言うずも。そうしてこんど、ばさ、
「本当は、じんつぁ、悪れがった、おれぁうまくてはぁ、みな食ってしまって、仕様なくてはぁ、言いわけに猫ば殺して、そして猫の肉煮てだなだから、勘弁して呉(く)ろ」
 て、そう言うたけど。そう言うて、ばさ、平らになって願わっだもんだから、じさもたんと怒んねで仲よく暮したけど。むかしとーびん。
 
〈話者 高橋しのぶ〉
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