32 南の山おじ-馬鹿聟-

 南の山のおじはぁ、里前から嫁もらったけど。そうしてこんど、正月礼に行ったらば、数の子の御馳走出たけど。そしてこんど、うまく御馳走になっているうちにはぁ、仲人さまも気ぁ出て、そして一緒に泊って、夜中になってから目覚めて、おかたに、
「さっきだ、あの、御馳走になった、あの、皿さついだプリプリていうもの、うまいもんだけぁ、あれ、まっと食たいな」
 て言うたど。
「おら、夜中に寒くてやんだから、行って流しのところの瓶さ入っでいたから、食べて来んだ」
 て言うたずもの、おかた。そうすっどノサノサとはぁ、夜中に入って行って、食べて、そしてしまいに、あまりうまくてはぁ、大きな瓶だもの、かぶついて食うべと思って頭突っこんで、そして食べたずも。そしたば、取らんねくなってはぁ、カメカブリになってしまって、とても寝床さも行かんねし、いまちいとで夜明ける、まず便所でも行って来(く)んべと思って、便所さ行って、そしてあまり粗相な便所であったべどや、萱囲いの、そしてかけ前さ行っていたば、また誰か来た音すっずものな、便所さ。それからこんど、見つけらんねようにと思って、かげ前さ隠っでいたば、おらえの家のような便所であったかなんだか、あの、お尻ふくものなかったど。そしてこんど、見っだらば、その垂っだ人がすませてから、石、脇にあんなの、石で拭いたごんだど。そしてこんど、汚ないから投げてやったずも。そうすっど運よくその南の山のおじ、かぶってた瓶さ石当ったど。そして割れて、おかげで取れたど。そうして帰って来て、まず寝て、起きて朝飯のとき、「あまりこれ、嫁も聟も来たし、おれ仲人したし、嬉しいから謡出すかな」て、謡い歌ったずも。「めでたいどこ唄う」て…。
   池のみぎわの ツルカメは…
 て歌ったど。そうしたれば、その聟は鶴と名付いた人であったど。自分のこと言わっだと思って、こんど数の子、そのプリプリ食ったこと教えられっど大変だと思って、
「にしゃ、ほんだら、石で尻(けつ)、石で尻(けつ)…」
 て言うたけど。そして語ってみたれば、
「んだば、その仲人(ちゅうにん)さんが、石で尻拭って、瓶さその石当てて、おれのかぶった瓶をば取れて、あとから大笑いの座敷になったけど。むかしとーびん。
 
〈話者 高橋しのぶ〉
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