31 南の山おじ-馬鹿聟-(1)

 むかしあったけど。南の山のおじぁ、正月礼に嫁の家さ行って、数の子出さっで、あんまりうまいから、手づかみして数の子食ったど。そうして小便たれ行ってさわったもんだから、かゆくなったずもの。そしたば、かかに、
「かゆくなって困ったもんだから、洗わねねなぁ」
 て、
「枕元にヤカンさ水汲んで来てあるもの、それで洗え」
 て言わっだど。それで洗っているうちに、ふやけてしまって、取れなくなってしまったずも。
「これは困ったことになった。取れなくなった」
 朝げになっても取れねごんだずも。仕方ないから、ヤカンぶら下げて起きて来たど。そして飯(まま)御馳走になって後、親父、
「あまり退屈だから、将棋さしでもすっか、兄んにゃ」
 と言うたど。そして「あまりええ」て、さしてるうちに、何の気なしに、
   〝センキカエッポは抜けねどせ〟
 て、さしたど。思わずな。そうすっど、じさま、
   〝裏の清水で冷やせどせ〟
 て言うたど。舅親父はさしたど。
「ははぁ、それはとれっか」
 と、そう思って、
「おどっつぁま、おどっつぁま、おれ、ちいと用達して来っから」
 そう言うて、裏の方さ廻って行ってみたば、冷(ひゃ)っこい清水あったど。そさ、まず、のだばって冷(ひや)したど。そしたば冷っこいもんだから、縮んでしまって取れであったど。んだから、そんな不精はするもんでないど。むかしとーびん。
 
〈話者 川崎みさを〉
>>さとりのお化け 目次へ