29 篩借り

 むかしあったけど。
 じさとばさ、二人暮しの家あったけど。今日、じさは早く起きて、お庭掃きしったれば大きな豆拾ってはぁ、
「ばさ、ばさ、まずこんな大きな豆拾ってきた。これ半分に割っても生(お)えそうな豆だから、半分残して種子にして、半分で黄粉拵えて呉ろ」
 なて言うたずも。そして半分割ってしまって、半分、茶ほうじで煎ってはぁ、黄粉はたいたど。そしたば、
「あんまり、篩、切っでではぁ、役立たねから、まず隣のばっちゃにでも借っで来い」
 なて、
「いやいや、隣の家さ行けば、隣のなも食(く)たいなて来るもの、駄目だごで」
 なて。
「いやいや、上の家だって、黄粉餅だて言うと、珍らしいがって、食(く)たいて来るど悪いから、ええから、おれフンドシの端でふるえ」
 なて、じさ、フンドシの端でふるってだずも。そうすっどそいつよりも大きな屁出たど。そうすっじど、黄粉みなとんで行ってはぁ、向いの山の笹葉やら何かさ喰付いたど。そしてはぁ、こんどあたり近所の子ども、
「おれは、餅焙って持って行く」
 隣のは、笹巻もって行く、団子もって行くてはぁ、あたり近所の子ども、みな持って行ってはぁ、向い山の笹さ喰付いたのつけて、
「じんじの屁の実、うまいぞ」
 て、喜んで食ったけど。むかしとーびん。
 
〈話者 高橋しのぶ〉
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