27 櫛の化物-和尚と小僧-

 むかしあったけど。
 ある山中のお寺に、小僧一人と和尚さまいたけど。そして、今のように何もうまいものないんだし、和尚さま、いそがしくない時、小僧つれて行って、いっぱい木の実(ブナの実)拾ってきて、そして自分、用達しに行くときは、
「木の実、食べてろよ」
 て、あずけて行ったずも。そしてこんど、遠いとこさ行ったとき、和尚さま、帰り遅くなったば、囲炉裡の隅から細い手出して、
「小僧、小僧、木の実呉(く)ろ」
 て言うずも。恐っかないから、「ほら」て呉れっど、それ食べてしまって、また、ちいと模様見てっど、
「小僧、小僧、まっと呉(く)ろ」
 て、また手出すじも。そして、
「小僧、小僧、木の実呉ろ、もっとないか」
 て、また手出っではぁ、小僧は二つ三つ食べたばりではぁ、なくなってしまったずも。
「これは恐っかないもんだ。早く和尚さま来ればええ」
 と思って、こんど和尚さま帰って来るのを待ちでで、その話したど。
「それは、おれ、夢見たんだべから、こんどそんな事あんまいから、夜、いま一晩げ、おれ遅くなっども、我慢して留守番してろ、今夜いっぱい木の実呉っで行んがら…」
 て、そしてこんどその前の晩げの倍も木の実もらって、また留守番しったら、また暗くなのなっど、
「小僧、小僧、木の実呉(く)ろ」
 て、細い腕出してよこすずもの。
「そんなわけないどもなぁ」
「んだて、和尚さま、おれ、夢でない、この隅から出した」
 て言うものなぁ、それから二人で掘ってみたど。ほうしたらば、ずっと昔の古い歯欠け櫛出てあったけど。櫛の化物であったけど。むかしとーびん。
 
〈話者 高橋しのぶ〉
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