15 さとりのお化け

 むかしあったけど。
 炭焼おやじ、夜、山で退屈なもんだし、このような風に、ただいても、もったいないと思って、『カンジキ曲げ』しったど。―カンジキって知ってござんべ―。そして一生懸命曲げてたば、旅人ぁ来たずもな。「こんばんわ」て来たなだ。
「こんな山の中さな、なんだべまず。何かの化けたものには相違ないな」
 と、こう思ったど。
「ほう、なんだ、おやじ、おれば何かに化けたんだと思ったべ」
 と、こういうずもの。
「いよいよもって、これは化けもんだ」
 そう思ったど。
「いや、やっぱり、いよいよもって、化けもんだと思ったな」
 こう言うずものな。そのうちにおやじも恐っかなくなって来たもんだから、ちと太めのカンジキ曲げっだな、手はずして、ピンと跳ねたずも。そうすっど、その旅人どこさ、太っとい方飛んで行って、その鼻柱のあたりビンとはじいてしまったど。そうしたば、キャーッと逃げて行ったど。鼻血たらしたらし…。まぁそうする気でないぐしたもんだから、悟れねぇがったそうだ。そうして夜明けてから、
「やれやれ、ええがった」
 と思って、血たらした後たどってみたど。そしたば雪の上さポタポタと垂(た)ってだ血辿(たど)って行ってみたら、穴あったど。そして村の衆頼んで行って掘ってみたば、古ぼけたムジナであったど。それする気でなくしたもんだから、ふいに急所やらっで、うなっていたどこ、捕(と)らっだけど。むかしとーびん。
 
〈話者 川崎みさを〉
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