19 笠地蔵

 じいちゃんとばぁちゃんがいだんだけど。ほしたればそのじいちゃん、ばぁちゃんが貧乏暮しで、そしてその暮だから、どこの家でも門松要(い)っから、その松を売って、して、その金で晦(つめ)買いでもしたらば、ええでないかて、じいちゃんとばぁちゃん二人で語ったんだど。
 じいちゃんが山さ行って、松穫ってきて、そして松売りに行ってくっからて、その松を持って町さ売りに行ったわけだどな。
 そうしたところが、その松が売れねがったわけだな。そして仕方なくて帰ってくっどきに、笠屋と行き会ったど。
「いやいや、笠売んねくて、仕方ないから帰っどこだ」
 ていうから、
「おれも、松売んねくて、帰っどこだ」
 ていうから、
「ほんじゃ、笠と松と取り換えねぇか」
 ていうて、交換して笠もって途中まできたら、地蔵さんが立って、雨ざらしになっていだんだど。そうすっど、
「いやいや、痛み入ったな。地蔵さま、このように降る雨に笠もなくて、こりゃ、なんぼがひどがんべ。この笠をかぶせて進ぜ申すかな」
 て、笠を地蔵さまにかぶせたど。そして家さ帰ってきて、
「ばぁさん、ばぁさん、今日、松ぁ売れなくてきたら、途中に笠売りに行ったげんども、笠も売れないのさ途中で会って、そして松と笠交換して、笠もって帰る途中、地蔵さまの前を通ったら、そうしたところが地蔵さまが雨ざらしになって、可哀そうに立ってござったから、笠をかぶせ申して、帰ってきた」
 て、語ったわけだな。ほしたら、
「じじちゃん、そりゃええごどしてきた。なんぼ地蔵さん、雨ざらしに笠かぶせてきたおかげで、頭も濡らさず喜んでござったべ。ほんで、仕方ない、お茶とクキ菜煮したなでも飲んで、そして寝るべ」
 て、夜話語ってはぁ、お茶とクキ菜煮で年取りして寝たどこよなぁ。そして夜の夜中になったば、何かゴムゴム、ゴムゴムて音するてなぁ。ほうして目覚まして耳立てて聞いっだところが、
「じんじの家がどこだ、笠の代持ってきた」
 ていう、そういう声聞えんのだど。
「はて、なんだい、こがえな声出てくるもんだ。まず、何のものやら、まずなぁ」
 て、眠らんねで、その声をきいているうち、だんだん、だんだんとじいちゃんの家の近くさきたわけだなぁ。そしてるうちに、そのじじの屋根の方さ上がる音してるうち、ダダンと音したど。まだ暗いうちにな。
「なんだ、まず、ダダンなて音した」
 それから音しなくなった。何音だべと思って、だんだんと夜明げんな待ってで、明るくなって見たところが、台所さ、小判がバラバラてあったど。
「へえ、まずまず、じいちゃん、あのじじぁ家どこだ、笠の代もってきたていう声はたしかにきこえた。きっと昨日かぶせたお地蔵さまが笠代だて、おらえの家さ、そのお金もってきて、屋根の上から落しておくやったんだ。ありがたい、ありがたい」
 て、喜んで、ほうして、お正月たのしくしたってよ。どーびんと。
(藁科)
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