12 おぼめの幽霊

 水沢原ていうどこに、阿部惣左ヱ門ていう家あった。当弥ていうじじがいだった。そこに「おぼめの幽霊」に会ったていう話ある。
 その人が十七才の時だったど。昔はどこの家でも蚕おいたもんだから、んだげんども、いっせいに上簇しないで、家で早く上がったどかていうようなことあって、向いの重左ヱ門の家さ、桑、
「あっちの家で早く上がって、桑余ったから…」て、そいつ背負いに行ったわけだ。夜、桑背負うに荷繩にヤセウマ背負って行ったていうんだな。そして川さ橋かかって、オサ橋渡って行ったら、そこさ棒(ばい)木(た)積んでいたもんだ。昔は、溜場あって、そこの溜場のどこの棒木のどこさ、女、子ども抱いて、手拭いかぶってちゃんと尻かけていだったていうわけだ。ほいつ何とも思わねで、
「なんだべな、今頃、この女なぁ」
 と思っていったげんども、その前通りすぎっどき、「今晩は」ていうたげんど、黙っているし、その家さ行って、桑もらって、そして背負って帰っどき、帰りにもまだ居るていうんだ。それと、着った縞の着物の縞模様がはっきり見えだていうんだな。
「これは大した化けものだ」
 て、気付いたていうわけよ。ほして背負ってきた桑、そこさ投げて、桑もらった家さ、また戻ったていう。
(藁科)
>>さるむこ 目次へ