24 御法度の糯米を持ち込むこと

 こんなことがありました。背にかますを背負って番所にさしかかりました。見 れば大分重そうなので、誰が見ても穀物と見えます。役人も見とがめて、
「こら、佐兵次、背中の物は何だ」
 と引きとめました。すると佐兵次は、「はい糯米だっす」と答えました。役人は 怒って、
「けしからん奴め、糯米は御法度ということを知らんか」
 というと、
「へぇ、それはよく知っています。役人様」
「知っていながら、背負ってくる奴があるか」
 と、かますを引きずり下ろして見ると、中に糯米などありません。役人はまた 佐兵次に、してやられたと思い、「こら、役人を嘲弄するか」と怒りました。 「これはこれは、お役人様、それはあなた方のひがめと申すもの、佐兵次は決し て偽りは申し上げませぬ。世間の人は佐兵次を見ると、『佐兵次や、お前は背中に 糯米を背負っているな』というんで、佐兵次は解せませぬが、皆が糯米を背負っ ている、糯米を背負っているというんで、私もついそう思うようになりました。 それでお答えしたのです」
 役人も苦笑して、
「あんまり馬鹿正直であるからよ、貴様。着物にしらみがいるだろう。だから人々 から馬鹿にされたんだ」
佐兵次は、「お役人様は何んでも知ってお出でになる。ではさようなら」と番所 を通り、一町も来た頃、「役人の馬鹿ぞろい」と一人言を言いました。翌日のこと、 またもや、佐兵次がかますを背負って番所にやって来ました。
「お役人様、糯米を背負って参りました」
 というと、「よいよい、通れ通れ」と役人はうるさそうに佐兵次を通してしまい ました。実は今日はかますの中には、糯米が五升も入っていたのです。佐兵次は それを売って、少くない金をもうけました。
〈近野久〉
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