22 屋根葺と知恵競べのこと

 その頃、米沢から最上に通うには赤湯町から取上坂を越え、中山を通って、つ づら折りに山を登り下りして上山に出たものです。今の中川村には谷間に点々と 村が散在していました。その中に川樋という所がありました。この川樋にも佐兵 次の知り合いがありましたので、今日もそこを訪ねました。丁度その家では四人 の屋根葺が来て、屋根を葺いていました。屋根葺の一人があまり風采のあがらぬ 佐兵次を見て、一つからかってやろうと思って、
「佐兵次さんや、お前は皆から名人上手といわれているそうだが、どうだい、俺 達の真似は出来るかい」
 と言いました。佐兵次は笑いながら、
「屋根葺さん、お前方も人なら、佐兵次も人、お前方のすることならなんでも出 来るよ」
「これは面白い、だが、もし出来なかった時はどうする」
「屋根葺さん、それは貴方がたが先手をうってのことかも知れないが、それでは もし佐兵次が勝ったらどうしますか」
「よし、俺達の四人の一日の日当を全部出すよ」
「そうか、よしよし」
「だが、お前が出来ない時は…」
「お前達の言う通りにするよ」
「だが待てよ、佐兵次さんは無一文だから、酒を買ってもらうわけにはゆかない し、仕方ないから、毎日屋根葺に手伝いをしてもらおう」
「いいよ」
 ということになって、いよいよ屋根葺を競争することになりました。屋根葺の 一人が一つ力で負かしてやろうと、丁度いい所にあった玄米俵(四斗六升入)が あったのを横背にして立ち上がった。すると佐兵次も負けていません。これも二 俵背負うと軽々と立上がったのです。それを見ていた他の屋根葺が、
「それじゃ、こんどは屋根葺でこい」
 と、するすると屋根に上って行きました。続いて佐兵次も屋根に上って行きま した。屋根葺は如何にも馴れた手つきで鋏を動かします。佐兵次はどうかと見る と、これは不思議、何と本職の屋根葺と同様に鋏を使い、へらを使って屋根を葺 いてゆくではありませんか。屋根葺は心の中では舌を巻きながら、あくまでやっ つけてやろうと、
「屋代郷の破風は台所の上にあったな」
 というと、佐兵次は、
「いや、台所と座敷の境にあるよ」
 という。これはしまったと、こんどは矛先を変えて、
「佐兵次さん、屋根葺は何時も高い所で仕事をするんだから、職人は屋根葺が一 番ですよ」
 というと、佐兵次は、
「屋根葺さんは、随分自慢されるが、高い屋根におれば落ちる心配がある。もし も落ちてしまえば死んでしまうよ」
屋根葺は、畜生めと最後の知恵をしぼって、
「佐兵次さん、木を二つ合せれば何かい」
 というと、
「何んだ、そんなことも知らんのか、林じゃないか」
 屋根葺はますますあわてて、
「じゃ、桜という字は何と読むか」
 すると佐兵次はにやりと笑って「十八の女が二貝(階)の下にいるだよ」。何を 尋ねても即座に答えるので、屋根葺達はとうとうかぶとを脱いで、四人分の日当 を二人分にまけてもらって、佐兵次に謝ったということです。
>>佐兵ばなし 目次へ