14 嶋蔵さんと謎問答

 入生田村の近野忠内さんは幼名を嶋蔵といった。不幸にして幼ない時、失明し て片目だけとなった。性来才智人に勝れ、よく公事に通じておった。屋代郷の三 めっこと言われた。又独眼忠内と呼ばれた。四ケ村の堰役を久しく勤めて功労が あり、村の有志近野家の庭に碑をたて永遠に同人の徳を残した。佐兵次さん、折 り折り同家を訪れては座談に花を咲かせた。ある日の事、炉辺話に佐兵次さん、 笑いながら、
「こちらの家は仲々便利な家だ。寝溜め(失明の目に通ず)起溜め(片目に通ず) があるから」と、家内の人々はさっぱりと分らない。一人嶋蔵さん解し苦笑する ばかりであった。よし佐兵次奴を一つ困らして呉れんと、
「時に佐兵や、お前は仲々の頓智者だが、おれの謎を解かれるかえ」
 と、言うと、どんな謎でも解いて見せましょうと佐兵次は答えた。
「そんなら言うが、佐兵次とかけて何と解く」
 と問題出せば流石の佐兵次も余りの皮肉な謎にすぐに答は浮かばない。考えこ んでいると嶋蔵さん、
「仲々むずかしいと見える、それでは一つわしが解いてやろう、佐兵次とかけて タン虫と解く、その心は、廻って食う」
 と言えば、炉辺どっと笑った。佐兵どんな顔をするかと見れば至って平気なも の、嶋蔵さんに向って佐兵次、
「旦那、今度はおれの番だが、解って呉れ、問題は嶋蔵親方とかけて何と解くん だね」
 又返報かと思うたが、嶋蔵さん一つ目出度解してやろうと思ったが、仲々解さ れぬ。反対に考え込んだ。これを見て、佐兵次、
「親方、親方、むづかしいと見えるな、そんならわしが解いて見よう、嶋親方と かけて婚礼の結の盃と解く」
 と言えば、一家の者、
「これは目出度い、目出度い」
 と笑った。
「さて、その心は何ん」と聞くと、佐兵次、小声になり、
「その心は一生の固め(片目)」と言うたので、嶋蔵さん、初め一家の者目出度い は何処へやら、互に顔を見合せ唖然として苦笑した嶋蔵さんなら、佐兵にだけは かなわんと言うた。  
〈明治三十八年・安部名平次〉
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