12 沢中の喜太郎

 小っちゃい時に、弟に、
「おれ面白いことして見せっから、庭さ出てみろ」
「なんだ、喜太郎」
「まず、ええから来てみろ」
 て、オノガラ持って来て、
「見てろよ、おれ、これ登って行んから…」
 なて、継いで登って行く、継いでは登って行く。見てるとずうっと登って行っ て小さくなってしまった。
「早かったなぁ」
 と思って、親父ぁ見ておったら、後から来て、肩、ポンと叩いて、 「お父 (と) 、何見っだ」
 て言うた。この野郎はな、と思っているうちに、十三の時いなくなった。して 泥棒になって、どんな錠でも、そこの場に行って、手を三つ打つとビンと、ひと りで開いたど。
 大阪の鴻池の倉にも入って、千両箱を盗んだ。こういう泥棒が沢中から一人出 てるんだぞ、お前。
 泥棒をして逃げるときには、一日に四十里も行ったもんだから、とても追いか けられるもんでない。出かけるときに、笠に胸にパッと当てたものを、そのまま で落ちなかったど。
(塚原名右ヱ門)
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