9 三反歩の田圃を盗んだ話

 あるとき、炉ばたでの世間話のときに、長手の地主が、伊佐よ、お前は名のあ る盗人だそうだが、田圃は盗まれるか、とひやかした。伊佐はムッとして、ええ りっぱに盗まれます、ときっぱりと返事をした。ではあそこにあるおれの三反歩 の田圃を盗んでみろ、ほんとうにできるかということになった。いよいよ春になっ た。地主がそろそろ伊佐に話した。田をうなうと出掛けて行くと、もう先にちゃ んとうなっている奴がいる。畦切り、代掻きと、田植えの仕事が進むたびに、先 にやってるやつがいる。地主もこれにはたまげてしまった。それから田植え、田 の草取りと進んで、稲刈り、稲干し、稲運びまで先々と伊佐にやられて、とうと う三反歩の田圃を盗まれてしまった。地主もこれにはあきれてしまった。
(「東北快盗伝・長手の伊佐」)
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