8 伊佐の最後

 船坂の新兵衛といえば、これまた伊佐と肩を並べるほどの大泥棒でした。伊佐 もちょくちょく新兵衛の所に行っては、お茶を飲むほどの仲だったのでした。
 ある時、米沢の目明しが新兵衛の子分を捕えたのです。一計を案じて、
「やいやい、貴様のような悪党はひねりつぶしても足りない奴だ。獄門にすると ころだが、貴様が罪の恐ろしさを恥じる気持があるなら、考え直してやらぬでも ない、その代り…」
 と、何やらひそひそと耳打ちをするのでした。やがて親分の新兵衛のところに やって来て、
「親分、大した金が米沢の町内にあるから、一つ、親分、このわしが手引きいた しましょう」
と言うのでした。新兵衛はあまり気のりしなかったが、傍にいた伊佐に目をや ると、伊佐も気がなさそうにしているのでした。
「あすこはな、警戒がきびしいでな、それに大した金もないと見てるがな」
 と、新兵衛が言うのでした。
「親方が弱気になるなんて…」
 という子分の言葉に、伊佐は、
「きびしい警戒に、新兵衛さんの弱気と聞くと、かえって血が騒ぐな」
 と言って、こうまで言われてはと、とうとう伊佐は腰を上げたのです。その伊 佐に押されて新兵衛も神輿を上げることにしたのでした。
「では早い方がいい、今晩はどうかな」
 伊佐が口を入れると、新兵衛もワラジを履いて用意をするのでした。ところが ワラジの紐を結んでいた新兵衛の手先で、その紐がプツンと音を立てて切れてし まったのです。
「どうも今日はついていないようだ。わしはやっぱり止めにしよう」
 と、新兵衛は弱気になるのでした。そういう新兵衛を見ていると、伊佐もあま り気がすすみませんが、二人とも尻ごみしたと笑われるのもいまいましく思われ ます。子分に案内されて、大金持の蔵の横手に着くと、そこの錠前は音もなくス ルスルと開きます。しばらく中を覗ってから、伊佐はするりと蔵の中へ入ったの です。そのときです。
「エイッ」
 とばかり伊佐に切りつけた者があったのです。伊佐の左手はばっさりと切落さ れてしまったのです。
「畜生、図られたか」
 と、伊佐は声を立てた時には、あちこち提灯をかざして目明しが蔵の中へ入っ て来たのです。
「外には出られまい、奴の例の天井へ、へばりついている術ぐらいなもんだ」
 と言って、灯を天井に向けたが、伊佐はどこにもいません。あちこち走り回っ ている目明しを尻目に、伊佐は姿を消してしまったのです。
「逃げられたか」
と、誰かが叫んだ時です。ポタリポタリと天井から血がしたたり落ちて来たの です。
「ここだ、槍手は集まれ」
 伊佐は片隅の天井に登っていたのです。
「旦那、待ってくれ、お縄を頂戴するから、お待ち下され」
 こうして、さすがの伊佐も捕まってしまったのです。十両盗んでも死刑の時世 ですから、もちろん、伊佐は死罪、米沢の南、白旗松原の刑場で首を切られたの でした。
(船山健重)
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