5 偉駄天

 むかし、印度という遠い国に羽根の生えた馬がいたそうです。天空を飛ぶよう に早いので、偉駄天というところだったのでしょう。この伊佐も全く偉駄天とい うところ。今日は福島、明日は米沢と、けちんぼの商人の屋敷にもぐり込んだと 思うと、がみがみ屋の御役人の蔵の中にと盗みに入るのですから…。だから胸に 笠を当てて歩いて行くと、その笠が胸にぴったり吸いついて落ちなかったほど早 く歩いたということで、嘘かまことか、こんなたとえ話があります。
 十里以上も離れた茂庭村や仙台領の白石の城下などにも、夜中にチョッコラ出 かけて、一仕事して来て、朝は仲間の奉公人と一緒に百姓仕事をしていたといい ます。遠出をした朝は、いくらそっとしていても、奉公人たちには、うすうす知 れるものと見え、朝起きると、タライに水を汲んで伊佐の前に置き、
「おい、ゆんべどこさ行って来た。これさ足を入れてみろ」
 と差出すのです。にこにこうなずいて、タライに足を浸すと、水はジューンと 音を立てて煮え立ったということです。
(安部忠内)
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