2 馬場数衛宅へ新兵衛が入る

 和田村に、豪族馬場数衛というのいたのよ。その家の破風は四間で、普通の家 の二軒前あったというのよ。そこさよく忍び込んだもんだど。船坂新兵衛は…。  そして、破風さ上って隠っでいて、夜になっどいうど、下を見て、金のあっど こ見てっけんど。馬場数衛の豪族の家では、用意周到で、台所から座敷さ行くと きは、必ず灯りを消したというのよ。三日も忍び込んでみたげんど、その動作は 絶対に間違いないというのよ。どなたでも、どなたでも家族さ教えておくもんだ から、金のあるどこさ行くときは、灯しを絶対に点けないこと、という家訓を置 いていたらしい。三日三晩忍び込んだげんども、どうしても分んね。新兵衛だっ て、真の闇ではどこにどう金のあるもんだか分んねくて、下さ降りたど。三晩目 に…。
「旦那、おれも、あっちこっち忍び込んでみたげんども、こっちの家ぐらいな用 意周到な家見たことない、おれから降参する」
 て、頭下げたという話よ。
 
(今井勇雄) 
>>佐兵ばなし 目次へ