25 魚屋が抜がっだ話

佐兵は藁仕事で売ってるもんだからな。高畠とか泉岡にな。注文して毎年カマ ス買うのだど。カマスは綴じて十枚にして持って行くのだど。そして持って行っ 屋では馬鹿にする気なもんだから、こうして裏表十枚のうちのを 見たど。 「佐兵、佐兵、こいつはええなだげんども、中端 なかはし あって分んねなぁ、こりゃ」 「なあに?」 「中端あって、上ぁええげんども、中が不整いで分んねなぁ、こんじゃ分んね」 て、返したど。そうすっど、せっかく編んで来た、こいつで酒でも飲むべど思っ て行ったの、飲みっぽげだ。ほんでも、いっこうごしゃがねで、 「ほだか、ほんじゃ今度ぁ、ええの持って来っから」 て行ってしまったど。 そしてこんど、しばらくもよってから、魚買いに来た。塩引きな…。 たところぁ、 屋が 77 「塩引頼まっじぇ、一匹切って二十人前切っておくやい。若衆に頼まっで来たん だから」 二十切ったど。一匹の魚切ったのだから、頭の方も尻尾の方もあるわけだ。 「なんだこりゃ、頭の方と尻尾の方と、中の方どな、中端あるな、こりゃ。こん じゃおれもいらね」 て帰って来たど。屋、むかしの魚、そう切らっじゃもんだから、とんな損し たど。カマスどこでない。佐兵も行ってしまったから、そいつぁ売り呆 ぽ けたど。 (近きよ)
〈話者 高橋良雄〉
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