19 ローソクを持ち出す

      (1)
 米沢藩では、ローソクはやたらに他領に出さねことにしていたど。
 佐兵はお番所 (ばんどこ) を通るとき、大きいお茶箱さ、こげなちっちゃなローソクの破片 (かけら) 一 つ入っで来たずま。
「これ佐兵、何背負ってきた」
「ローソクだ」
「ローソクは持って行っては駄目だ。開けてみろ」
 て言わっで、開けてみたところが、箱の中に、こげなちっちゃなローソクの破 片一つしか入っていなかったど。
「はつけなもの、差支えないから、早く持って行け」
 て言われた。その次はぎっしりいっぱい持ってきて、
「ローソク持って来た」
 て言うど、 「ああ、佐兵ローソクだら、ええ」
 て言うた。それから佐兵はローソクをかまわず持って行かれっかったど。
(川井弥右ヱ門)       (2)
 私領では、ヨリで頭結っては悪いがったずも。それぐらいなもんだから、ロー ソクなの灯 (あか) さんねだに…。大きい箱さ持って行って、
「何持 (も) した。佐兵」
「ローソクだ」
 大きい箱さローソクの欠け、こげな小っちゃな入っで、
「こいつだって、ローソクだ」
 こんど、
「何もって来た、佐兵」
 て言うど、
「にしゃ、テンツ野郎だから行け」
 て、こう言われっかったど。そん時、でっつり背負って行って売ったもんだっ たど。
(安部茂次)
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