14 三味線をひきずる

       (1)
 佐兵は、とうしそこら中歩いているうちに、あるところで三味線ひいでるとこ にぶっつかったんだど、そうすっど、
「あの三味、上手だなぁ」
 て、みな感服して聞いっだど。佐兵も聞いでで、
「おれもひかれる、三味」
 て言うたど。
「なんだまず、おれひかれるなて、佐兵、三味ひいたなて聞いたことないな」
「ほだたて、三味ぐらい誰だってひかれんべちゃえ」
「ほんじゃ、ひかれんながい」
「ほだ、おれなど、上手にひかれる」
「ほんじゃらば、ひいてみせろ」
 て、こう言わっだど。そして、
「持ってきてみろ、三味ひいてみせっから…」
 まさか引ずっどなど思わねから、持ってきたど。そしたば、三味の棹さ縄つけ て、「ええか、ひくぞ、ええか、ひくぞ」
 て、こう引っぱってガラガラ、ガラガラと引っぱったど。引っぱられっど思わ ねもんだからよ。そしてはぁ、三味みなぼじょごしてしまったど。ほだげんど誰 も三味ぼこした、悪いとは言わんねでしまったど。なんぼ怒らっでも、佐兵は、 「おら、ひけというから引いたんだ。こいつだって引くのだべ」
 とうとう三味一丁、ぼっこさっだど。
(近きよ)
       (2)
 ブリキカンを道路、ジャガラン、ジャガランて引張って歩ったそうだ。下の部 落衆は、また佐兵だなと思っていたんだど。
 部落の人もちょいちょいと芸者買いとか、遊びごとあったげんども、大抵おれ は芸者買いするようなことは嫌いだから、道路かまわず引張って歩 (ある) って、三味線 鳴らす代り、ブリキカン引きずって一週間ばかり、毎朝げ続けて歩いっだんだな。
 そうすっど、部落衆知ってるもんだから、
「ああ、また佐兵は頓智のええのだげんど、またカン引張って来たぜはぁ」
「ありゃ、一つの趣味だ。おれぁ個人としての趣味で、芸者買いに行かんねもん だから、おれぁこうして遊んでいんなだ」
 て言うたど。
(渡辺金五郎)
〈話者 高橋良雄〉
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