9 二十才が出た

       (1)
 文殊山さ稼ぎに来てて、お月さま、お出やったどき、
「ありゃ、東の山から二十才 (はたち) が出た、二十才ぁ出た」
 むかしは暗くなるまで稼いだもんだからな。みんな魂消て、
「なにだごど、二十才が出たざぁ」
「見ろまず、あれあれ」
「なんだ、お月さまだどら…」
「んだて、おぼこだざぁ、〈十三・七つ〉て言うどら。十三さ七つ足したら、二十 才だべちゃぇ、めんどうくさいから、おらぁ、二十才て言うた」
て。こういうことばっかり語って、人馬鹿にして歩いっだって。
(近きよ)
       (2)
 頼まっで畑うないして、畑ぁちょっと遅くなったげんども、遠いどこなもんだ から、終 (おや) して行く勘定で遅くまで稼いで来たていうんだな。そしたところぁ、お 月さま出たの見て、
「姉さ、二十才ぁ出た、二十才ぁ出た」
 て言うもんだずもな。
「何だ、佐兵兄 (あ) んにゃ、二十才ぁ出た、二十才ぁ出たて、薄気味悪いこと語んな」
 て言うた。ちょっと暗くなったもんだから、
「十三、七つで二十才だごで…」
 て、お月さま出たから〈こだい遅くまで稼がせて〉て言うわけだな。
(安部茂次)
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